人工知能(AI)は医療を根本的に変えた。今後は輸送や防衛といった産業を永久的に変える可能性もある。
AIはスポーツ界にも多くの変化をもたらした。例えば、野球の世界では、複数の選手が動いている複雑な野球場の中で、1人の選手のバットの振り方や動きを解析するため、選手に装着されたハーネスがきめ細かなデータを記録し、データセンターに送信している。外野で木の葉が1枚でも舞えば、AIが感知する。
では、フィギュアスケートはどうだろうか? これもかなり細かい動作が求められるスポーツだが、AIデータの活用は、選手を前年の状態と比較するための詳細な統計ではなく、演技を公平に評価することが目的となる。
動きを採点すること
米マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生で自らもフィギュアスケート選手であるアメリー・チャンは米非営利団体TEDの会議に登壇し、16人編成のチームで演技するシンクロナイズドスケーティングへのAIの活用に関する講演を行った。その中で、フィギュアスケートの評価基準として使用される「トータルエレメントスコア」について解説したほか、技術審判と演技審判がどのように連携して採点するのかを説明した。
チャンは聴衆に向かって「極めて単純明快に聞こえるのではないだろうか?」と問いかけ、自宅のテレビで競技会を視聴している時には考えもしないような複雑な問題を提起した。例えば、フィギュアスケートの演技中には、氷の表面の小さなくぼみや選手のしゃっくりなど、細かな問題が起こり得る。審査員はこうしたことまで考慮に入れなければならない。
チャンは「このスポーツは時に政治的になることもある」と指摘する。「スケート選手として、私たちは可能な限り最高の演技を披露し、残りを審査員に委ねる」が、「人間の偏見は常に存在する」と説明。インターネット上のフィギュアスケート関連の掲示板に最も多く寄せられる投稿は「採点に対する激しい不満だ」と述べた。
選手1人1人を判定する難しさは、体の線や脚の角度などを見ながら、高度な共時性が求められるところにある。チャンは、こうした解析をすべての選手に対して一貫して公平に行える「シンクロボット」の開発に向けた理論を構築している。
個人とチームの動きの解析
このようなAI解析システム用の優れた基準を得ることの難しさについて、チャンはオンライン上の動画の数が限られていることを指摘する。つまり、潜在的にデータが不足しているのだ。また、データを手作業でラベル付けしなければならない場合もある。
そのためには、コンピュータービジョンの初期の研究で進化した基本的なネットワークタイプの1つである畳み込みニューラルネットワーク(CNN)も必要になる。プログラムは、低、中、高のレイヤーと、フィルターやパディングなどを使用して特徴やエッジを定義し、「画像の階層的表現」を提供する。CNNは「何を探すべきかを具体的に指示されなくても、これらの特徴を検出するのにどのフィルターが最も効果的かを自ら学習する」能力を持つ。