テクノロジー

2025.03.29 08:30

すごい糸を吐く虫がいる—。タフネス・クモ糸比2.3倍 「超高機能素材」誕生の顛末

浅沼章宗|興和 上席研究職 未来事業企画室長

浅沼章宗|興和 上席研究職 未来事業企画室長

Forbes JAPAN 2025年5月号は「新・ヒットの研究」特集。世の中で今、注目されている商品には、最先端のエッセンスが詰まっている。爆発的ヒット作の徹底分析と、次に来る消費トレンドの予測を通じて、これからのヒットの法則を探った。

ここでは、自然界発の最強高機能素材ともいえる「ミノムシ繊維」で新市場創出に挑む、興和の「MINOLON」を取り上げた本誌記事の前半を紹介する。

超極薄にして「クモ糸比」2.3倍のタフネス。歴史上、誰も想像しえなかった可能性を引き出したのは、研究者たちの飽くなき探究心だった。


すべての項目でクモ糸を圧倒

「自然界最強とされてきたクモの糸よりも数倍の強度があると知り、産業化にトライしない手はないと思った」

2024年11月、ミノムシの糸の実用化に世界で初めて成功、総合ブランド「MINOLON」(ミノロン)を立ち上げ、産業化への道筋をつけた興和の未来事業企画室長、浅沼章宗はそう語る。

丈夫さを示すタフネス2.3倍、破断強度1.8倍、弾性率2.8倍と、すべての項目でクモ糸を圧倒するミノムシの糸の製品化第1号は、ヨネックスのテニスラケット「EZONE」の新シリーズ。シャフトに先進カーボン素材とミノロンの複合材を使い、振動減衰性を5.8%向上させ「かつてない柔らかくクリアな打球感」を実現。今年1月の全豪オープンでは女子シングルス、男子車いすシングルスなど8種目で新ラケットを使用した選手が優勝した。

繊維強化プラスティックと複合可能な耐熱性もあり、興和は「航空・宇宙分野や防弾チョッキなど、未知の領域に広がる可能性がある」と、内閣府「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」もすでに2020年頃からの展開を目標としている高機能素材市場に期待する。

ミノムシ繊維の構造(「NATURE COMMUNICATIONS」より)Taiyo Yoshioka, Takuya Tsubota, Kohji Tashiro, Akiya Jouraku & Tsunenori Kameda "A Study of the extraordinarily strong and tough silk produced by bagworms" NATURE COMMUNICATIONS (2019) 10:1469

ミノムシ繊維の構造(「NATURE COMMUNICATIONS」より)Taiyo Yoshioka, Takuya Tsubota, Kohji Tashiro, Akiya Jouraku & Tsunenori Kameda "A Study of the extraordinarily strong and tough silk produced by bagworms" NATURE COMMUNICATIONS (2019) 10:1469

きっかけは「ある研究者の好奇心」

世紀の発見はひとりの研究者の好奇心がきっかけだった。

「ミノムシの糸がぶら下げているのは蓑と中の幼虫で、クモよりも重い。どんな構造か興味をもった」と語るのは、農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)の絹糸昆虫高度利用研究領域新素材開発グループ上級研究員、吉岡太陽。

絹糸(シルク)とは昆虫など生物由来の糸すべて。「化学繊維に代わる強いシルクを見つけたい」。15年初夏からミノムシを求めて毎週末に野山を歩き回ること3カ月、ようやく最初の1匹を見つけた。時間がかかったのは、生態についての研究論文が極端に少なかったからだ。

MINOLON(ミノロン)HP
MINOLON(ミノロン)HP

糸の中で分子がつくる階層構造をX線構造解析で目にしたとき、吉岡は「鳥肌が立った」と振り返る。「カイコシルク等とは違い、秩序だったきれいな階層性を成しており、なぜ強いのかがきちんと説明できる構造だった」という。

翌16年、新規事業を模索する上層部から「新しい素材の開拓を」という特命を受けた浅沼は、吉岡の上司でグループ長の亀田恒徳から「詳しいことは言えないが、すごい糸を吐く虫がいる」と話を聞いた。

続きはForbes JAPAN「新・ヒットの研究」2025年5月号 52-53pで

文=秦 融 人物写真=宇佐美雅浩 編集・抜粋=Forbes JAPAN編集部

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