WOMEN

2025.03.28 13:30

「私はひとりじゃない、と思えるから」再審弁護人が地獄の先に見た光

鴨志田祐美|弁護士

「坂を転がるようにどん底まで落ちていくようだった。外で体を張って再審の活動にのめり込むことができたのは、うちに帰れば安住の場があったから。家族が誰もいなくなって『6LDKの孤独』を味わった当時のことは、今思い返してもつらいです」

それでも、「再起不能だろう」という周囲の予想に反し、鴨志田はよみがえった。夫と母を看取り、京都に拠点を移すとともに、大崎事件の第4次再審請求に身を投じた。絶望から救ってくれたのは、仲間だった。最高裁の決定が出た日に「刑事弁護とは、このような苦しみに耐えることだと思います。闘い続けましょう」と鼓舞した先輩弁護士がいた。映画『それでもボクはやってない』の周防正行監督は、事件を再現・検証する映像の制作に協力してくれた。

「たくさんの応援団たちが、命懸けで支えてくれる。どんどん味方が増えていくから、どれほどしんどくても私はひとりじゃないと思えるんです」

しかし、鴨志田へのインタビューの1カ月後にあたる2月25日。最高裁は第4次再審請求に棄却の判断を下した。閉ざされた門はやはり、とてつもなく重い。

再審をめぐる法律を変えるため、鴨志田はこの数年、ほかの弁護士らと共に国会への働きかけに奔走している。国会議員を回る「一斉ロビー活動」を行い、政党から勉強会の声がかかれば、二つ返事で引き受けた。政治思想が正反対だと感じていたベテラン議員への説明の機会を得て悩んだときは、「大きな目的を実現するためなら、どんな相手でも巻き込んだほうがいい」という仲間の言葉に背中を押された。賛同者が増え、1年前に超党派の議員連盟が発足したころ、鴨志田は日本橋にマンスリーマンションを借り、一日平均5人の議員と面会。議連への参加を呼びかけた。

「とにかく疲れ果てて、部屋に戻ったら着替えもせず化粧も落とさないでベッドに倒れ込んで寝る日が続きました。いつもと違う相手にいつもと違う話し方をしなきゃいけないからどっと疲れるんだって気づいたけど、気づいたからってやめられるわけじゃない(笑)」

そして今、議連の会員数は全国会議員の過半数まで膨らんだ。

「富士山って遠くから眺めるときれいじゃないですか。『いつか頂上に登ってみたいな』と憧れる。でも5合目まで来たら、周りに岩しかないし、いろんなものが降ってくるし、滑って落ちることもある。今の私はまさにそんな状態。それでも頂上は近づいているし、諦めたくないんです」

理不尽に苦しめられ、不当な審判が下された人々の尊厳を守り抜くために。足を踏み入れた者としての責任と覚悟を胸に、鴨志田は今日も山頂へと歩み続ける。


鴨志田祐美◎1985年早稲田大学法学部卒業。大学卒業後、社会人、結婚、出産、予備校講師を経て、40歳で司法試験に合格。2004年弁護士登録。22Kollect京都法律事務所設立。同年より日本弁護士連合会再審法改正実現本部本部長代行。日本弁護士連合会人権擁護委員会大崎事件委員会委員長。大崎事件再審弁護団事務局長。著書に『大崎事件と私 アヤ子と祐美の40年』など。

文=Forbes JAPAN編集部 編集=南 麻理江(湯気) 写真=若原瑞昌

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