2025年2月25日発売の「Forbes JAPAN」4月号第二特集では、「地銀・信金ベストマッチング事例集」を掲載。地域経済のキープレイヤーである地方銀行や地域金融機関によるさまざまな協業のケーススタディを通して、地域から始まる新時代への希望のヒントを探っていく。財政指標のランキングだけでは浮かんでこない、千差万別の事例には、地域のこれからのカタチが詰まっている。
仲介ではなく受注者として取引の当事者となる形態は、全国の金融機関で初めて。金属加工製品を中心に取り扱う地域商社が、新たにサプライチェーンへと加わった。
「人口減少や高齢化といった構造的な課題を抱えるなかで、製造業分野でふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)が当事者となり、地域の生産性向上を目指す、という思いから立ち上げたのがFFGインダストリーズ(FI)です。金属部品は汎用性が高いほか、外注ニーズも樹脂などに比べて圧倒的に多い。また図面に基づいて受発注が行われるため、この分野から事業を始めました」と語るのは、FI代表取締役社長の林田紘一だ。
FIはFFG100%子会社で、2023年5月に金属加工品を中心に受発注業務を扱う、「地方銀行初の地域商社」として設立。FIが九州を中心に発注企業から図面、納期、数量等の情報を受注後、登録されているデータベースより協力工場を検索。打診した工場が対応可能となった場合には、適切なフィーを上乗せした見積もりを発注者に提示。交渉成立後はFIから協力工場に発注し、製品を協力工場から発注企業へ直接納品する。このモデルにより、大きく3つの提供価値が生まれた。

1. 新たなサプライチェーンの構築
協力工場は、自動車関連工場の多い福岡県、半導体の熊本県、造船の長崎県の3県にまたがる。各々福岡銀行、熊本銀行、十八親和銀行の取引先のなかから、約400社の協力工場を集め、FIが情報を一元管理している。最大の強みは上記3行合わせて、およそ400支店がもつネットワークを活用できることだ。例えば、既存の協力工場が事業承継問題などで廃業となった場合、FIが新たな工場を探索するため、発注企業側は大きな影響を受けることはない。
2. 信用補完
地方銀行が母体のFIが取引の相手方を担うことで、発注企業にとっても協力工場にとっても安心できる取引となる。
3. 取引コストの削減
小規模経営が多い協力工場は、技術があっても営業にまで手が回っていない。そこをFIが営業代行することで、県外の新規案件の獲得にもつながっている。
加えて、中小企業にとって与信コストを削減できることも大きい。一方の発注企業側にとっては、外注先である協力工場の管理業務をすべてFIが代行するため、人件費や事務費など、大幅なコスト削減が可能となる。
「弊社メンバーは、もともと銀行員出身者が多くを占めます。工場を訪問するなかで加工工程や所有する機械、独自の技術力など、強みを見いだそうと、よりメーカー側に立った視点に変わったことで、担当者とも本音で話ができるようになりました。どの工場も、本業をいかに伸ばすかが最大の課題。その思いを共有できる、真の協業パートナーと見てもらえることがうれしい」。林田は先を見据えてこう続けた。
現在2期目を迎え、メーカー出身の技術者や商社経験者の採用を積極的に進めている。今後はFFGのネットワークとリレーションを基にした、自動化設備提案や商流への商社としての介在などにも事業領域を広げていきたい考えだ。エリア外への拡大も視野に入れ、海外案件も出てきている。