柴田 裕(以下、柴田):起業家との事業共創を軸とした「JR東日本スタートアッププログラム」というアクセラレーションプログラムに2017年から取り組んでいます。ここから生まれた「沿線まるごとホテル」は、JR青梅線沿線の空き家を改修して客室にしていく地域活性化事業です。
親会社のJR 東日本が保有する駅舎をホテルのフロントとして活用してもらうなど、資金だけじゃなく、声を上げるだけじゃなく、事業の社会実装をサポートしています。僕たちは起業家に伴走して共に地域をより良くしていこうとする「共感投資」の姿勢を大切にしています。共感の源泉は、起業家のものすごい熱量です。地方の起業家ほど熱量が高く感じられる背景には、それだけ大きな課題があり「自分がやらなければ」と危機感があるからだと思います。
藤田 豪(以下、藤田豪):美容健康商品のブランド開発を行うMTGグループ(名古屋市)のCVCとして50億円のファンドで事業ビジョンの「VITALLIFE」を実現するスタートアップ37社に投資してきました。また日本の課題はすべて地方にあります。東海地方は大企業が多く起業マインドが生まれにくいともいわれてきましたが、20年に僕たちも含め官民が協働し、スタートアップエコシステム形成を目指す「Central Japan Startup Ecosystem Consortium」が立ち上がり、変化も起き始めています。22年には、名古屋拠点で初めてシード期の地域課題スタートアップに特化したファンド「Central Japan Seed Fund」を立ち上げました。
藤田圭一郎(以下、藤田圭):岡山を拠点に、瀬戸内ゆかりのシード期スタートアップへの投資を主にする「Setouchi Startups」を運営しています。自分たちがベンチャーキャピタル(以下、VC)を立ち上げたのも地域の企業が増えない、東京の投資家がまったくこちらを向いてくれないという危機的な状況で、最初にリスクマネーを供給するプレイヤーが必要だという使命感がありました。21年に1億円規模の1号ファンドを組成し、16社に投資してきました。2号ファンドは10億円規模を目指しています。

異分野をつなぐ、共感資本エコシステム
藤田豪:僕が大切にしているのは、LP投資家を含めて「手触り感のあるスタートアップ投資」ができるようにすること。地方には資金力はあってもLP出資の経験がない企業がたくさんあります。シード期のファンド「Central Japan Seed Fund」のLPは、金融機関のほかは中日新聞社や東海テレビなど、ほとんどが初めてベンチャーファンドに出資するという地元の大企業です。出資だけでなく、人手もプロダクトも実証実験する場もないシード期のスタートアップの成長支援を前提に参画してもらい、実際にサポートしてもらっています。ミートアップも年次総会を含め年に数回開催しています。LPには出資金がどのような思いで創業した起業家の手にわたり、その起業家が今何に悩んでいるのかを知ってもらいたいから。最近はLPの一社に交渉してもらって「レゴランド」で開催しました。LPを巻き込みながら開催していくことで新しいつながりが生まれたりして、スタートアップ側に直接投資してくれる企業が出てきたりもしています。
KEYWORD 1:LPの多様化
投資ファンドの管理運営者がGPであるのに対し、LPはVCを通じてスタートアップ投資をする。金融機関や個人投資家だけではなく、自社へのシナジーを目的に事業会社が参加するケースが増えている。
KEYWORD 2:ゼブラ企業
社会性と経済性を追求しつつ、持続可能性や共存性を重視する主にスタートアップを指す。短期的な成長と利益追求を優先する「ユニコーン企業」に対比して、2017年に米国で提唱された。