インパクト投資は、「システムチェンジ」の実現に向けてより広域的なアプローチに動き出している。SIIF(社会変革推進財団)で調査・研究開発を行うインパクト・カタリストが紐解く、その意味とは。
2024年1月末、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で世界中からインパクト投資の先駆者が集まる象徴的なイベント「Systemic Investing Summit」が開催された。同イベントは、システムチェンジ投資の実践を世界的にリードするスイス「TransCap Initiative」が主催。ここで議論の主題となったのが本コラムのテーマである「システムチェンジ」だ。これまでのインパクト投資の成果を踏まえ、一部の投資家の間では「システム志向」をアプローチに組み込むことで、社会課題が生まれてくるその構造自体に変革を生み出す「システムチェンジ」を目指す動きが増えつつある。
SIIFでは、このシステムチェンジを「社会・環境といった大きなシステムのなかで、構造的に生まれた複雑な課題の解決を意図して、特定したシステムの機能や構造を変えること」と定義してきた。社会課題を成立させている背景要因や複数原因に目を向け、社会構造そのものの変革を目指すとも言える。例えば、パーム油生産は熱帯林の伐採や同地域に住む生物の生息地の破壊に壊滅的な影響を与えているが、森林伐採の直接的な禁止をしても、多くの農家の生活をただ奪うことになるため解決には向かわない。そのためパーム油生産にかかわるあらゆるステークホルダーを集め、共通指標や伐採状況をモニタリングすることで、中長期的に改善するという別の道を選んだ。
このように「近視眼的にならず、全体としての変革を導くこと」がシステムチェンジであり、それをインパクト投資において追求することを我々は「システムチェンジ投資」と呼んでいる。資金提供にとどまらない課題解決に必要な「多様なアプローチ」を結集させて新たな価値を生むシステムへの変容を促す行為とも言えるだろう。
注目すべき2つの動き
システムチェンジ投資は新しいテーマだが、注目すべきさまざまな動きが見られる。
第一には、専門的に研究開発するような組織の存在だ。例えば、22年にノルウェーで発足したシステムチェンジ投資の実践者ネットワーク「TWIST」はその代表的な存在であり、ケーススタディなどをまとめたホワイトペーパーを24年10月に発行した。 そこではすでに方法論や成果の一部を可視化する試みが始まっている。また、冒頭の「TransCap Initiative」では、気候変動を大きなテーマに、システミック投資を推進し、スイスでのモビリティ改革などの具体的なプロジェクトを通じて実践を深めている。ほかにも、オランダの「Deep Transitions Lab」は学術的な視点から持続可能なシステム変革を研究し、未来の金融モデル構築を目指している。また、アメリカの「TIIP」は「システムレベルの投資」に焦点を合わせ、社会的・環境的リスクを包括的に管理する取り組みを押し進めている。このように世界の各国で取り組みが進んでおり、彼らの存在が明確な正解がまだない「システムチェンジ投資」の領域における水先案内となっている。