「インパクト」という言葉はその意味や意義が多元的で、モザイク状に取り組みがあることも特徴だ。近年、注目されているのが、地域に密着した金融機関ならではの動きである。
2023年11月、金融庁と経済産業省が共同事務局となり、インパクト(社会・環境的効果)の創出を持続的な成長につなげる好循環の実現を目指して、「インパクトコンソーシアム」が設立された。4つある分科会の1つに「地域・実践分科会」がある。潜在的な環境・社会、人的資源を活用。経済・社会基盤の強化を実現する。今回、その座長を務める慶應義塾大学の宜保友理子と肥後銀行経営企画部長の坂田寛之、八十二インベストメント営業部副部長の山田尚那で「地域×金融×インパクト」について議論した。
宜保友理子(以下、宜保):今回の座談会のテーマは、「インパクト・エコノミー創成に向けた、地域金融機関の新しい価値」についてです。地域金融機関は金融サービスの提供にとどまらず、人材や情報、知恵を提供し、経済のハブやエンジンの役割を果たしています。お二人のインパクトについての率直な思いと取り組みについてお話いただけますでしょうか。
坂田寛之(以下、坂田):私は1995年に熊本県の肥後銀行に入行し、営業の現場に長く従事しました。2016年の熊本地震が転機でした。故郷の被害を目の当たりにし、「銀行員として人のため、地域のために何かしなければ」と目の覚めた思いがしたのです。そのタイミングで、グループ会社の肥銀キャピタルへ出向を命じられました。同社では復旧や復興に向けてファンドを組成し、融資、債権買い取り、出資などを取り組みました。
同社でのインパクトの事例のひとつが、熊本県の名産、馬刺しに関する事例です。震源地の真上にあった全国トップクラスの生産規模を誇る地元メーカーの加工工場が全壊し、事業の継続が難しい状況に陥りました。そこでファンドを通じて既存債権を買い取り、債務を削減・整理するとともに、国と県の支援制度を使って工場を立て直し、経営管理体制の見直しまで踏み込みました。
また地震後には、ベンチャーの育成事業を再開しました。特に県内大学発ベンチャーへのファンド投資を実施し、特徴的なのは創業前の研究段階での事業に対し、寄付型のGAPファンドを創設したことです。これにより教授や学生の研究段階のものを、起業、事業化する後押しとなる契機とすることができました。
銀行全体の取り組みとして、新型コロナウイルスの感染拡大により廃業が続出した市内中心部の活性化を図るために、「スタートアップ・ハブ・くまもと」(通称スタハブくまもと)を設立。創業や開業を志す人たちに対して、保証協会や商工会議所、税理士など”オール熊本”の体制で後押しする。資金提供だけではなく、支援先にはしっかりとした事業計画を立ててもらい、資金繰りも管理する。融資額は小粒ですが、2年間で約400件、約30億円の融資を実行しました。さらに自己資金がない開業者に対し、別途ファンドによる資金提供も行い、資本経済のヒエラルキーを超えることができる制度としました。
