インパクトは「目の前の課題」の解決
山田尚那(以下、山田):私は06年に長野県の八十二銀行に入行し、主に支店で法人向けの融資の仕事を手がけるなどし、現在は21年からグループ会社の八十二インベストメントで県内企業の新規規上場や新規事業分野への増資の支援、ファンド業務に取り組んでいます。
私の転機は、21年の銀行法施行規則の改正です。銀行とその子会社が国内一般企業の議決権を合算して5%を超えて持つのを原則禁止する、いわゆる「5%ルール」が緩和され、事業承継や地域の活性化、新産業の育成といった、地元の企業が抱える様々な課題に対して銀行側がより多くの選択肢を持てるようになったのです。
改正を受けて親会社である八十二銀行も新たに投資専門会社八十二インベストメントを設立し、22年2月には総額300億円規模の「サステナファンド」(八十二サステナビリティ1号投資事業有限責任組合)を立ち上げました。事業承継などの課題を抱えていたり、新しい事業や技術の創出、地域の雇用創出や賑わいづくりに取り組んだりする企業を支援するものです。
投資を通じた事例では、地場産業のひとつであるきのこ産業のなかで、食用きのこ向けの菌糸技術を植物性由来の皮革製造へその技術を転用するベンチャーに投資しています。また、観光資源の活用・開発といった視点では、廃道を復活・整備し、休止していた山荘を再開した山荘運営事業者への投資を行いました。
狙いは、地域のお客様や地元経済の成長にあります。八十二銀行は、もともと地場産業の製糸業を支えるところから成長してきた経緯があります。地域社会に対する思いは、我々のDNAに埋め込まれており、地域社会の課題解決に取り組むことは、私たちの責務であり義務にも近い感覚を持っています。
また、八十二銀行は24年5月に「価値創造プロセス」を発表し、創出する価値として「地域経済・地域社会の活性化と質的豊かさの実現」を掲げました。我々は地域社会やお客様のために投資を通じて、県民一人当たりGDPの成長や、地域の中核企業の成長や新たな企業の成長、地域の文化・観光資源の発展と次世代への継承の一翼を担っています。
宜保:私は「目の前の課題」をビジネスや経済の力を使って解決することがインパクト投融資、あるいはインパクト・エコノミー創生のための活動であると考えています。課題があるということは、需要があるということ。だからこそ、顧客もいて、ビジネスや経済も成立する。その意味で、皆さんにとってのインパクトとは、地域社会の質的豊かさの向上と言い変えてもよいでしょうか。
山田:その通りだと思います。
坂田:肥後銀行はKFGグループとして、4年前に「パーパス」を設定しました。「私たちは、お客様や地域の皆様とともに、お客様の資産や事業、地域の産業や自然・文化を育て、守り、引き継ぐことで、地域の未来を創造していく為に存在しています」。銀行だけでなく、グループ全体でこのパーパスに沿った行動を取るというのがインパクトであると理解しています。そもそも地方銀行は「地域社会のため」を大事にしてきました。よって個人的にはインパクトという言葉が取りざたされるようになっても「以前からやってきたことだ」と受け止めている面もあります。
