樫田俊一と小松リチャード馨は2020年5月、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の研究成果をもとにイクスフォレストセラピューティクス(以下、xFOREST)を設立した。同社は、病気の原因となるタンパク質の設計図であるRNAを標的とした創薬プラットフォームを開発。これまでRNA構造は一つひとつを解析する必要があったが、同社の独自技術「FOREST Technologies」では、一度に数万個の構造を網羅的に解析でき、創薬プロセスを大幅に効率化する。この大規模解析技術を製薬会社に提供し、低分子化合物由来のRNA標的医薬品の創出を目指している。
ANRIシニア・プリンシパルの宮﨑勇典は、20年10月のシードラウンドでxFORESTに投資。同社が9.5億円を調達した24年12月のシリーズAでも追加出資を行った。なぜ宮﨑は投資したのか。
宮﨑:樫田さんとの出会いは2011年。僕は当時、スタンフォード大学の大学院で生命科学の研究をしていました。学内で行われたある学会で、偶然、日本から発表に来ていた樫田さんとお話ししたのが最初でしたね。
樫田:僕は京都大学大学院の博士課程で、そのときは招待講演させていただいたんです。そこからしばらくは、SNSでお互いにフォローし合っていて、宮﨑さんが投資家になったことも知っていたので、起業するときに迷わず相談させてもらいました。
小松:xFORESTの技術は、樫田と私がもともとCiRAで研究してきたもの。起業の検討を始めた17年ごろは、米国でRNAを標的とした低分子創薬のスタートアップが出始めた時期で、我々が研究してきた大規模解析技術を創薬に生かせば、世界を変えられるのではという期待がありました。
宮﨑:技術系の博士やポスドクの方、大学の先生による起業は徐々に増えていますが、まだまだ日米では大きな差があって、それを当たり前の選択肢の世界にしたいというのが、僕がベンチャー投資家になった理由のひとつ。その意味で、樫田さんと小松さんがリスクを背負って挑戦したことは大きな意味がある。ぜひ協力したいと思いました。マーケットの観点でも、RNAに対する医薬品が注目されている一方、上市した製品はほぼなくて、そのブレイクスルーになる可能性のある技術という意味でポテンシャルは大きいなと。
樫田:ただ、経営者としての我々はど素人。宮﨑さんは、会社としての「箱」づくりから契約書や労務関連まで、本当にいろんな面で支えてくれました。資本政策でも中立的に的確なアドバイスをくれましたし、エクイティで資金調達をする場合は、すぐに出資できるように準備していると言って伴走してくれたことに大変感謝しています。
宮﨑:立ち上げのところではそれなりに貢献できたと思いますが、それ以降はおふたりの実力ですよ。人たらしのようなところがあって、投資家や顧客と良い関係性をつくれている。技術系スタートアップは、技術者だらけのチームになってしまうことがあるけれど、コーポレート周りも良いメンバーが集まっていて、自力で採用しているところも含めて、広い意味で営業上手だなと感じています。
樫田:確かに、シードからの4年間、僕らは追加調達もしないで、自走で成長してきましたね。世界トップクラスの製薬会社との契約数も5件以上に増えていますし、国内では、製薬会社がRNA標的の創薬を当社と一緒にやるか、それともこの分野から撤退するかという2択になるほど、良い立ち位置を獲得できています。これからは、世界展開を進めていきたい。そのための軍資金として今回、シリーズAでの9.5億円に加えて、助成金で10億円の交付を受けました。
小松:技術に関しては、競合他社と比べても間違いなく世界一だと自負しています。京都大学の助成金なども活用して、創業前から技術力を磨いてきました。自信はあります。
樫田:これまでは、標的のRNAに対して活性が認められたヒット化合物を見つけ出すところまでを主に担ってきて、その先のプロセスは製薬会社にしてもらう流れでしたが、今後は、医薬品として適切な性質をもつリード化合物の開発も担当する方針です。平たくいうと、創薬のより下流の工程まで一歩踏み込んでいく。我々が製薬会社さんと一緒に取り組むことで、結果的に患者さんに薬を早く届けられると思っています。新薬が患者さんの手に届いて初めて、私たちの挑戦は成功と言えるのです。
宮﨑:技術系で成功した日本の起業家って、大御所の先生が多くて、若い世代の成功例はまだほとんどありません。xFORESTが創薬スタートアップの成功のロールモデルを示すことで、次世代につないでいく。そんな未来を期待しています。
宮﨑勇典◎大阪府出身。東京大学薬学部卒、スタンフォード大学で生命科学分野の博士号を取得。ニコン、ボストンコンサルティング グループを経て2018年にANRIに参画。主にシード期の技術系スタートアップへの投資を担当。(写真左)
樫田俊一◎イクスフォレストセラピューティクス(xFOREST)代表取締役社長CEO。京都大学大学院生命科学研究科博士課程修了。CiRA特定研究員、パリ高等師範学校およびソルボンヌ大学での研究を経て20年にxFORESTを共同創業。(同中央)
小松リチャード馨◎イクスフォレストセラピューティクス(xFOREST)代表取締役CTO。京都大学大学院医学研究科博士課程修了。在学中の2020年5月に、RNAを標的とした創薬プラットフォームを開発するxFORESTを樫田俊一と共同創業した。(同右)