「ビズリーチ」の運営で得てきた膨大なマッチングデータと、それを学習させた独自の生成AI技術。この2つが、他社の社内スカウト事業を凌駕する武器なのだ。

変化を嫌う日本ならではのチャンス
ある特殊事情により、日本には欧米にない市場機会が生じていると南は指摘する。「欧米では約20~30年前、社外でも社内でも労働市場の流動化が同時に進みました。一方、日本では先に社外の労働市場が流動化し、最近ようやく社内の労働市場が流動化し始めた。このズレが日本にチャンスをもたらしているのです」
南は次のように説明する。欧米では、社外向けと社内向けそれぞれの労働市場をカバーするプラットフォームが同時期に別々に立ち上がり、統合されないまま今に至った。一社で両方を手がける力のある企業はなく、別々にプラットフォームが成長した。結果、各プラットフォームで構築されたデータベース構造には大きな違いが生まれ、統合が極めて困難な状況に陥った。
「日本では社内市場の流動化が遅れたので、社外向けの転職サイト『ビズリーチ』のデータベース構造を、そのまま『社内版ビズリーチ』にもっていけます。おかげで、社内外の労働市場を統合的に管理する独自のプラットフォームを構築できる。これは日本に巡ってきたチャンスです。我々は第二の創業の覚悟で、最大限生かすつもりです」

ビズリーチが社内外の労働市場を統合するプラットフォームを提供することで、企業はどんなことができるようになるのか。
「あるポジションに対する人材の候補として、社内にはAさん、Bさん、社外にはCさん、Dさんがいるとすると、1つのプラットフォーム上で最適な人材を選べるようになります。これは世界でも唯一無二の取り組みなので、ワクワクしています」
しかし今後、国内外の大手人材サービス企業やソフトウェア企業などが、莫大な資本をもとに日本で社内外の労働市場を統合するプラットフォームの領域に参入してくる可能性も考えられる。そうなれば、ビズリーチは激しい競争にさらされることになるだろう。
「心配ですが、攻めの姿勢こそ最大の防御です。我々は『ビズリーチ』の成長に頼るだけでなく、『社内版ビズリーチ』を第二の矢として放ち、社内と社外の労働市場をつなげていく。新しい課題を発見し、積極的、主体的に解決策を見出していく。その真摯な取り組みの積み重ねが、我々の強みです。これからも我々は変わり続けます。変化を止めた企業は必ず淘汰されますから」
労働市場の次に、ビズリーチが狙うもの
記者会見でビズリーチ社長の酒井哲也は、同社が目指すのは働く人の選択肢と可能性を広げ、会社の成長を促す「キャリアインフラ」になることだと述べた。「社内版ビズリーチ」のリリースにより、その足がかりを得たわけだ。南は、その先にどんなビジョンを描くのか。「個人のキャリアスコアリングを行いたいですね。社員が自分の市場価値やキャリア目標を明確に把握し、必要なスキルや経験を逆算しリスキリングに取り組めるようにする仕組みです」
さらにその先に「30年構想」がある。