
「日本のエリート層の受験世代にとっては競争が激化することを意味する場合もありそうです。その一方で、昨年、武蔵野美術大学が発表し、中国人留学生が反発・抗議した例があるように、留学生を対象に学費引き上げが進む可能性もあります。またアメリカのトップ大学から日本の大学院へという流れも起きています」
政府による海外送金の制限がある中国で、彼らの資金はどう持ち込まれるのかという実態に切り込んだのが「5章 独自のエコシステム」だ。詳しくは同書をお読みいただきたいが、キーワードは「地下銀行」「闇両替商」「拡大する国際金融網」だ。
さらに興味深いのは「8章 リベラル派知識人大集結」である。今日の中国では明らかに「自由な言論空間が縮小」している。こうしたなか、中国の独立系ドキュメンタリー映画の作家たちや芸術家、文化人が多数日本に移住している。
そのような人たちの拠点の1つが今回のイベント会場ともなった「単向街書店」であるが、ほかにも同様の思いで設立された中国語書店やカルチャースポットが都内にいくつも現れている。果たしてわれわれ日本人は彼らの思いをどこまで受けとめることができるだろうか。
有名企業のトップが華人となる日が
こうした中国新移民の増加は日本の社会にどんな影響を与えることになるのか。舛友さんは次のように語っている。「すでに述べた教育や不動産業界に加え、今後さまざまな分野に中国資本が進出してくる可能性があります。たとえば、サッカーのJリーグのチーム買収話も複数出ています。また東南アジアなどを経由して『アジア企業』として中国企業が日本に進出してくることも予想されます。
そして何より、影響力のある新移民の2代目、3代目が日本の財界や政界で活躍する可能性があります。プライム市場に上場する有名企業のトップが華人となる日がいつ来るのか、日本に帰化した元中国人が国会議員になるのかといった点も気になるところです。
熱海市長への出馬を表明した中国出身の徐浩予さんはすでに政党を立ち上げ、国会で勢力を築きたいと考えているようです。日本社会がどこまで華人を受容していくのか、いまから議論を始めるべきだと思います」
イベント後、舛友さんと何度かメールのやりとりをしたが、「本の刊行は始まり」との思いを共有した。そして、最後に彼はこう返信してくれた。
「この本をきっかけに、わずかでも発信力を持つことができたなら、在日中国人の日本社会への定着が全体として建設的な方向へ進むよう、その一助となりたいと考えています」