「この作業員は当初、突発的な事故で亡くなったと思われていた。しかし、防犯カメラの映像を確認したところ、事故につながる行動パターンが常態化していたことが分かった。つまり、これは防ぐことができた事故だったのだ」とホッブスはフォーブスに語った。
それから2年後、ホッブスとオマラは「Protex AI(プロテックスAI)」と呼ばれるスタートアップを立ち上げた。同社は、人工知能(AI)を活用して防犯カメラの映像を分析することで、倉庫や工場の作業員の安全状況を監視している。
ダブリンを拠点とするProtex AIは2月4日、セールスフォース・ベンチャーズと英国のベンチャーキャピタル(VC)のヘドソフィアが参加したシリーズBラウンドで3600万ドル(約55億円)を調達したと発表した。
Protex AIのツールは、ヘルメットや安全ゴーグルの未着用、危険なフォークリフトの運転、現場でのふざけた行為など、事故につながる可能性のある行動パターンを検出する。さらに、現場のマネージャーが生成AIを活用して倉庫のデータを分析したり、安全に関する統計レポートを作成したりすることも可能だ。
また、個々の作業員を特定しないように顔をぼかす機能も備えており、企業が特定の従業員を追跡するのではなく、オペレーション全体の傾向を把握できるようになっている。
ホッブスによれば、このシステムの強みは、倉庫のような混沌とした環境では見落とされがちな安全対策を、より包括的に把握できることだという。「倉庫はとにかく広大で、騒音が多い環境下でさまざまなことが起きている。施設内を歩いているだけでは、こうした安全のトレンドを把握するのは非常に難しい」と彼は語る。
Protex AIは、まだ小規模な企業だが、今年の年間経常収益(ARR)は1000万ドル(約15億円)に達する見通しで、評価額は今回の資金調達で1億5000万ドル(約150億円)に達した。同社は、すでにアマゾンやテスラなどの大手を顧客に抱えているが、その詳細は、秘密保持契約(NDA)を理由に開示できないとした。
保険コストの削減効果も
Protex AIがターゲットとする市場は、巨大なポテンシャルを秘めている。英国の調査会社テクナビオによると、世界の倉庫と保管市場は今後の4年間で6430億ドル(約99兆円)に成長すると予測されているが、アマゾンなどの大手が事業を拡大する中、作業員の安全確保は、ますます注目されるテーマとなっている。さらに、Protex AIのようなツールには、「保険コストの削減」などのメリットも見込めるとセールスフォース・ベンチャーズのノウィ・カレンは述べている。「保険料は年々上昇しており、企業にとって大きな負担となっている。こうしたシステムを導入することで、そのコストを抑えることができる」と彼は指摘した。
一方、倉庫や工場向けのテクノロジーはプライバシーの観点からの批判も受けている。これに対し、ホッブスはProtex AIの技術は従業員のパフォーマンスを監視するのではなく、安全確保に焦点を当てていると説明する。
「私たちのツールは、『もっと速く、もっと効率的に働け』と言うためのものではない。突発的な事故は、特定の個人のミスだけが原因ではなく、複数の要因が積み重なって起こる。私たちが注目しているのは、その全体的なパターンだ」とホッブスは語った。
(forbes.com 原文)