彼の成功の秘密は、物流にある。最初の数年は、何百もの小箱を郵便局に運んでいたが、その後、グレイハウンド社のバスに配達人を乗せる方法に変えた。そして1981年、当時設立10年目だったフェデックスの創設者兼CEOのフレッド・スミスと出会ったことがきっかけで、現在の方法を思いついた。ラファイエット空港の駐機場でFedExとUPSの貨物特別専用機に、スタラー社の最後の荷物が積み終わる午後8時まで待機してもらうのだ。米国本土の顧客による午後5時までの注文は、特注品以外であれば翌朝の受け取りを保証している。
「時間通りに商品を発送することが、僕の毎日の最大の喜びなんですよ」(スタラー)
小売業者にとっても、多くの(非常に高価な)在庫を抱える必要がないのは大きな安心となる。
「小売業者はジュエリーボックスや指輪の全サイズのトレイがすべて不要になります。彼らが欲しいものは何でも僕が売ればいいのです」(スタラー)
ある宝石商は、シスコがレストランに革命をもたらしたように、スタラー社が宝飾店に革命をもたらしたと語る。
「商品はよそでも買うことはできます。しかし、欲しい商品をすべて同じ場所から迅速に入手しようと思ったら、スタラー社しかないのです」
スタラー社の成功のもうひとつの鍵は、よりうまく効率的にできる領域に特化していることだ。カスタムメイドの「ジェムビジョン」部門は、ジュエリーのラフスケッチを高解像度の3次元コンピュータファイルに変換、それを3Dプリンタでプラスティックに出力して鋳造に回している。これによりカスタムメイドの注文にも迅速に対応可能となった。
「彼らのまねは誰にもできませんよ」
宝飾品の鋳造で47年の経験をもつある職人は、ジェムビジョンの熱烈なファンだと熱く語る。
「以前は自社で鋳造していたのですが、機械で鋳造するより、指輪のデザインをCADファイルで彼らに送ったほうが安上がりなんです」
スタラーは3Dプリンタの驚異的な進歩に感動し、この技術を駆使した製品づくりに意欲的に取り組んでいる。数年もすれば、金属で直接出力する方法も実用化に耐えるレベルになるとスタラーは考えている。そして、こう言うのだ。
「僕は、自分が最先端にいないと気が済まない性分なのです」
例えば、合成ダイヤモンドだ。化学的には本物と同じだが、地球上で数十億年以上かけて形成されたものではなく、数週間かけて機械で形成される。販売価格は天然ダイヤモンドの10分の1程度で、現在では、スタラー社が販売する0.2カラット以上のダイヤモンド年間約100万個のうち、80%が人工ダイヤモンドとなっている。しかし彼は、高価な天然ダイヤモンドの減少に対しても感傷的になることはない。その分は補うつもりだからだ。
「将来的には、ダイヤモンド宝飾品の販売数を現在の10倍以上にしたいと思っています」
スタラー◎1970年に米国ルイジアナ州ラファイエットで設立された宝飾品製造卸売会社。宝飾品のパーツの製造販売に始まり、宝飾品の製造、宝石のカットなど幅広く行う。顧客にはティファニーやハリー・ウィンストン、カルティエなども。航空便による翌日配達サービスや宝飾品のカスタマイズなどで顧客に寄り添うビジネスを目指している。
マシュー・スタラー◎スタラー社の創業者兼最高経営責任者(CEO)。純資産推定10億ドル以上。高校時代に宝石店でのアルバイトなどを経験。ルイジアナ大学ラファイエット校中退。1970年、19歳でスタラーを設立。故郷に拠点を置きつつ、メキシコ、タイ、インドにも生産拠点を設立。3Dプリンタや人工ダイヤモンドなどにも取り組む。