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2025.02.09 13:30

10億ドルを調達、光量子コンピュータを目指す4人の天才の履歴書

T. Schneider / Shutterstock.com

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完成すれば、人類が火を手にしたのと同レベルの革命的変化をもたらすといわれる量子コンピュータ。完成のため、最高の英知と多額の資金が費やされている。


豪クイーンズランド大学のアンドリュー・ホワイト教授には、ポスドク(博士研究員)のジェレミー・オブライエンが落ち着かない様子であることがわかっていた。2004年、彼らが量子コンピュータの基本となる「疑いようもない量子もつれによる量子論理ゲート」を世界で初めて解明した直後のことだ。

オブライエンに研究を続けさせるだけの予算がないことを承知していたホワイトは、英ブリストル大学のとある求人情報をオブライエンのデスクに投げてよこし、先方の主任教授に電話をかけた。

電話口でホワイトはこう言った。「ジェレミーという若くて優秀なやつを紹介します。ただ、言っておきますが、あなたはいずれジェレミーのために働くことになりますよ」

3年後、オブライエンはブリストル大学で量子研究のちょっとした帝国を立ち上げていて、それは100人規模のチームに発展していった。量子コンピュータという、不可解なほどのレベルでのタスク処理により世界を変えるとされるものに魅せられ、その開発に挑む研究者たちの集まりだ。

彼のチームの研究は15年にシリコンバレーのスタートアップPsiQuantum(サイクオンタム)としてスピンオフした。23年半ばに31億5000万ドルの評価額がつくと、同社には投資家から6億6500万ドルが流れ込んだ。24年4月には評価額が大幅に跳ね上がったが、それはオブライエンがオーストラリア連邦政府とクイーンズランド州政府を説得し、株式投資と融資のかたちで9億4000万豪ドル(6億3200万ドル)の提供を受けることになったため。サイクオンタムはその資金で、27年までにブリスベンで世界初の実用可能な量子コンピュータの完成を目指すことになった。

そして7月にサイクオンタムは、米イリノイ州政府が28年までにシカゴで2台目のコンピュータを完成できるよう、5億ドルの税優遇措置を申し出たと発表した。同州政府は加えて、サイクオンタムの仕様に沿った極低温工場建設に2億ドルを投じるという。

これは莫大な利害の絡んだ競争であり、サイクオンタムはインテル、IBM、マイクロソフト、アマゾンといった大手企業や中国政府、さらには多くのスタートアップとの激しい争いのなかに身を置くこととなる。というのも、最初に量子コンピュータを完成させた者が当面の間、とてつもない金額を要求できるようになるからであり、量子コンピュータには、複雑な創薬や交通量の合理的配分、コードの解読、ブロックチェーンの破壊、人間並みのAI(人工知能)の開発など、現在のコンピュータにはできないレベルでのタスク処理ができると期待されているからだ。

歴史に名を刻むチャンスは、サイクオンタムの共同創業者たちにも開かれている。最高経営責任者(CEO)のオブライエン、最高設計責任者(CA)のテリー・ルドルフ、最高科学責任者(CSO)のピート・シャドボルト、最高技術責任者(CT)のマーク・トンプソンの4人だ。
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文=マーク・ウィテカー 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

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