第三は、閣僚同士の軋轢。
経営やマネジメントの世界の怖さは、経営者やリーダーの価値観が、恐ろしいほどに、組織の文化や幹部の意識に映し出されることである。
実際、パワハラ的経営者の下では、パワハラ的幹部が数多く生まれ、部下を操作する「操作主義」の経営者の下では、やはり「操作主義」に染まった幹部が多くなり、「権力志向」の強い経営者の下では、幹部もまた「権力志向」に流される。
そして、絶対的権力者の下では、幹部は、その権力者との「距離の近さ」を競うようになり、「誰もがトップしか見ていない組織」が生まれ、「互いの協調的行動を軽視する組織」に堕してしまう。
以上述べた三つのことは、経営やマネジメントの世界の「理」であり、予測ではなく、必然である。
されば、トランプ政権は、これから確実に、この「三つの問題」に直面することになる。
もとより、外交や経済の幾つかの課題で、彼の「スタンドプレー」が成功することもあるだろう。
しかし、この「経営の理」に、マジックは無く、スタンドプレーも通用しない。
それゆえ、昔から優れた経営者や政治家は「経営の理」や「政治の理」を深く学び、その「理」に従い、物事を決め、行動してきたのである。
されば、トランプ大統領は、一つの格言で知られる「政治の理」にも、向き合うことになる。
少数の人を、長く騙すことはできる。
多数の人を、一時期、騙すことはできる。
しかし、多数の人を、長く騙すことはできない。
然り。歴史を見るならば、実行不可能な政策を大衆迎合的に語り続けて政権を得た政治家は、例外なく、この「理」に従い、挫折している。
これから、トランプ政権に、何が起こるのか。
それは、あれこれの政策の分析や評価や予測をするまでもなく、この冷厳な「経営の理」と「政治の理」が、教えてくれている。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。元内閣官房参与。全国8600名の経営者が集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp