トランプが2024年の選挙で民主党候補カマラ・ハリスに圧勝した理由については、既にさまざまな分析が出ている。共通するのは、この数十年の間に進行したアメリカ社会の深刻な対立と分断が背景にあるということだ。
アメリカは80年代以降、貧富の格差が拡大した。不安定な雇用、グローバル化による海外への工場移転、不動産バブルの崩壊、リーマンショックなどによって、安定した中流層が崩壊したのだ。また、ヒスパニック系やアジア系の移民が増え、新たな人種対立が生まれる一方、伝統的家族観を掲げる宗教右派の勢力も増している。
冷戦終焉直後にはそれほど立ち位置に開きのなかった民主党と共和党は、2010年代の後半には明確にリベラル/保守という対立関係になった。それぞれに主に対応するのは、進歩的エリート階級/増大した白人下流層を含む一般大衆だ。
この先まだ、分断は深まるのだろうか。そこではどんな暴力が発現してくるのだろうか。思えば、トランプは近年「暴力と共にある」というイメージの濃くなった政治家だ。2021年の支持者による議事堂襲撃事件、2024年の暗殺未遂事件は世界を驚かせた。トランプ政権を生んだアメリカ社会には、常に暴力的なものが胚胎されているのかもしれない。
舞台は独善的な大統領が治めるアメリカ
そうした不安を、内乱状態に陥った近未来のアメリカの姿として描いたのが『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(アレックス・ガーランド監督)である。2024年4月の全米公開から二週間の間、週末興行成績1位を維持した話題作だ。![](https://images.forbesjapan.com/media/article/76524/images/editor/a7cbc68b1590978f3094bec64069fa5f907c7f56.jpg?w=1199)
憲法を無視して第三期の任期に入った独善的な大統領が治めるアメリカ。19もの州が国家から離脱し、その中でテキサス州とカリフォルニア州からなる西部勢力と、フロリダからオクラホマに至るフロリダ同盟が、ワシントン.D.C.に向かって軍事攻撃をしかけている。冒頭、テレビに映し出される大統領の強気の宣言にもかかわらず、首都の陥落は時間の問題と見られている。