彼の頭の中にどういうアメリカ地図が描かれているのかは、知る由もない。背後に見える陰惨きわまる民間人の屍体の山から推測するに、この男は戦闘に参加するうち、「敵も味方もわからなくなった世界」でついに気が触れたのだ。異様な印象を与える赤いサングラスはそれを意味するものだろう。
このシークエンスでは、象徴的な構図が出現する。銃撃の衝撃で吹き飛ばされたジェシーが屍体の放り込まれた穴に落ちたところを、俯瞰から捉えた図だ。左右に分かれた陣営がわかりやすくぶつかり合うのではなく、折り重なった死者たちの体の上で辛くも生き延びた者が這い回るという構図。ここでも、これは私たち自身の姿だという思いに捉われざるを得ない。
サミーの機転で彼らは危機を脱するが、この後に最年長で師でもあった彼を失う。一方、当初は初めての体験の連続にショックを受けていたジェシーは、リーの教えやジョエルの励ましの中で、時折向こう見ずな気性を表しながらも、次第にカメラマンとして成長していく。
(c)2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.分断と対立の時代をどう生き延びるか
本作に物語らしい物語があるとすれば、世代の異なる彼らが束の間擬似家族的な共同体を形成し、一番弱い者を守りながら年長世代がその責任を果たした後に斃(たお)れ、最後に若者が自立へと向かうという新旧交代劇だろう。とりわけ、リーと彼女に憧れるジェシーとの師弟関係は衝撃的な最後を迎えるが、カメラはジェシーの姿を中心に捉え、ヒロインの座が彼女に移ったことを示す。
それにしても、海外で幾多の修羅場を潜り抜けてきたはずのリーが、終盤の首都ワシントンでの激しい市街戦の中で、次第に気力を失っていく様子は痛ましい。散々目にしてきた敵国同士の闘いではなく、同じアメリカ人同士の殺し合いが目前に繰り広げられるさまに、精神が持たなくなってくるのだ。
一方ものごころついた頃には国内の対立が激化していただろう若いジェシーにおいては、危険極まる状況が逆に蛮勇を掻き立て、カメラマン魂に火をつける。ここで、もしリーがジェシーにバトンを渡さず、予定通り彼女がスクープを取っていたら、ラストのいい意味での不穏さは表現されなかっただろう。
自分を守ったリーをまったく気にかけることもなく、決定的な瞬間を求めて駆けていくジェシーの姿は、見る者に不安とも勇気ともつかない複雑な感情を起こさせる。若い世代は、世界情勢が大きく変わっていく最中の、この暴力に満ちた分断と対立の時代をどう生き延びていくのか。そんな問いを残すラストが秀逸だ。


