住民は生計を維持するために、畜産や狩猟、漁業に従事している。過酷な気候にも耐えられるよう改良されたヤクート牛は、地域の食生活の要となる存在だ。

極寒の環境で、人間の身体が「進化」
オイミャコンの状況をリアルに把握したいなら、以下の点を考えてみてほしい。それは、外気に露出した肌は、このような気温下では数分で凍りついてしまうおそれがあることだ。極端に冷たい空気を吸い込むだけでも、痛みを覚えることがある。このような環境では、人間の身体は強烈な生理的ストレスに直面する。しかしヤクート人たちは、適応の力によって、こうした状況に耐えることが可能になっている。
北極圏や亜北極圏に住む人々の研究から、極端な低温への生物学的適応の興味深い実態が判明している。例えば、イヌイットの遺伝子構成には、脂肪代謝や体温維持を強化する変異が含まれており、これが凍てつく気象条件のもとでの生存にひと役買っている。
ヤクート人も、何世代にもわたる選択圧によって、同様の寒さに対する耐性が強化されている可能性が高い。小柄な体躯と基礎代謝率の高さにより、彼らの身体はより多くの熱を発し、より効率的に保温できるのかもしれない。
平均的な人間の場合、これほどの低温にさらされると、ほんの短期間だけでも、劇的な変化が生じる可能性がある。まずは、血液の循環に影響がある。血液を重要な臓器に送ろうとするため、末端の部位への血流は減る。これが凍傷のリスクを増すことになる。
しかしながら、こうした寒気に常時さらされたことで、ヤクート人はこの環境に生理的に順化している。その1つが、寒さに対抗できる血管拡張機能だ。このメカニズムにより、凍てつく寒さでも、末端部に血液を送ることができる。
