李も希望の光を見いだそうとしていないわけではない。「国内の金融・外国為替市場のボラティリティー(変動率)は戒厳令の宣布を受けて急激に高まったが、その後は安定の兆しを見せている」と李は説明している。「不確実性は残るものの、今後の政治日程はいくらか明確になってきたと考えられる」とも述べている。
そうではないかもしれない。向こう数カ月間、韓国政府はアジア4位の規模をもつ韓国経済のパフォーマンスを上げる政策をほとんど打ち出せそうにない。世界の金融システムにドナルド・トランプ次期米大統領の就任に伴う「嵐」が迫るなか、その危険に備える対策すら取れないかもしれない。
より大きな問題は、尹政権が発足から2年7カ月ほどの間、競争力の強化、過去最高に膨らんでいる家計債務の圧縮、平均所得の向上、ビジネス環境の向上のための措置に乏しかったことだ。韓国はもうこの時間を取り戻すことはできない。
残念ながら、慢性的な怠慢に陥った韓国の政治指導者は尹が最初ではない。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は2017年、競争条件の公平化や、より平等な所得向上に向けた「トリクルアップ成長」モデルへの転換を掲げて就任した。文がスコアボードに刻んだ勝利は少なかった。
文の前任の朴槿恵(パク・クネ)の政権(2013〜17年)は、より「創造」的な経済につくり変え、家族支配の一握りのチェボル(財閥)に偏重した経済構造を改めるという大胆な計画をもって始まった。それは朴への弾劾と実刑判決で終わった。
その前の李明博(イ・ミョンバク)の政権(2008〜13年)も、経済のエンジンを輸出からシフトさせることや、韓国を世界上位7位の経済大国にすることを公約していた。明らかに、どちらも李の任期中に実現しなかった。