生物種を超えて広がるワクチンの可能性
次のステップは、ミツバチだけでなく、他の無脊椎動物にも対象を拡大することだ。「これは1種類の昆虫のためだけではなく、すべての無脊椎動物のための解決策となるかもしれないことは初めからわかっていました」とダラン社の共同創業者であるフライタークは語った。400億ドル(約6兆2600億円)市場であるエビの養殖は、環境負荷の大きい薬剤に大きく依存しているにもかかわらず、毎年、病気でかなりの損失を被っている。「何十億ドルという損失がありながら、エビの生産量は増加の一途をたどっています。エビの養殖に使用される薬剤は、マングローブ林に大きなダメージを与えているのです」とクライザーは指摘する。
エビの免疫システムはミツバチのものに似ているため、女王バチと同様に母エビにワクチンを接種できる可能性があるとクライザーは考えている。ダラン社はエビでよく見られる白斑病という病気に対するワクチンを小さなエビに与え、商業販売する大きさにまで養殖した。同社によると、養殖研究施設での初期の試験では生存率は64%で、有望な結果が出始めているという。「エビの場合、養殖業者によるあらゆる取り組みが失敗に終わってきました。当社のアプローチは大きく異なるため、市場に参入するチャンスがあると確信しています」とクライザーは言う。
もしハチやエビにワクチンが効くのなら、他にどんな応用が考えられるだろうか。長期的には、マラリアやデング熱のような病気を人間に媒介する蚊にさえワクチンを接種し、病気の大流行を抑えることができるかもしれないとクライザーは考えている。気候変動によって以前は熱帯特有だった病気が北へと広がるリスクが高まる中、昆虫へのワクチン接種は最終的には食糧安全保障、そして人間の健康にとっても重要になるかもしれない。
「ミツバチにとどまらず、はるかに大きな問題です」とクライザーは言う。「ミツバチは私たちが生きていくために必要な動物であるため、保護することはとても重要ですが、そのために展開されている科学はミツバチの域をはるかに超えるものなのです」。
(forbes.com 原文)