バイオ

2024.12.29 13:00

ハチを病気から守るワクチン開発の米新興、次のターゲットはエビ

巣枠を手にする養蜂家(New Africa / Shutterstock)

巣枠を手にする養蜂家(New Africa / Shutterstock)

ミツバチへのワクチン接種とはどのようなものなのか。養蜂家はハチのワクチン接種に関心があるだろうか。

アネット・クライザーは2018年にダラン・アニマル・ヘルスを創業して以来、こうした質問を受けてきた。同社が開発した経口ワクチンは、創業から5年後に米政府に承認された。このワクチンは養蜂家がミツバチに与え、ミツバチが分泌するローヤルゼリーを通して女王バチの体内に取り込まれるようにつくられている。この過程を経ると、不思議なことに女王バチの子孫に免疫ができる。クライザーは今、できるだけ多くのハチに免疫をもたせて、ミツバチの巣だけでなく、ミツバチが受粉を助けている作物を守ることも使命としている。

ミツバチを救うワクチン開発への挑戦

「昆虫の減少は世界にとって大変なことです。昆虫がいなければ、人は地球でも他のどこでも生きていくとはできません」とクライザーは語る。

ダラン社が手がけるワクチンは、「アメリカふそ病」という壊滅的な被害をもたらす細菌性の病気を予防する。クライザーはワクチンを米国に約300万あるミツバチのコロニーを健康に保つための第一歩と見ている。ミツバチを脅かすのはこれだけではない。コロニーの約50%、数百万匹のハチが、ミツバチヘギイタダニと呼ばれる厄介な寄生虫や農薬中毒、栄養不足、農作物の受粉のために飛び回るストレスなど、さまざまな要因で毎年死んでいる。養蜂家にとっては壊滅的な数字だ。

「畜産農家が毎年3~5割の牛を失うことを想像してほしい。そうした問題に立ち向かうにはどうしたらいいのか」と、ミツバチの保護に取り組む組織を支援するキーストーン・ポリシー・センターのシニアプロジェクトディレクター、マット・ムリカは言う。

米ジョージア州アセンズを拠点とするダラン社は、ハチ用ワクチンは多くのハチを生存させるための重要なツールで、5000〜3万のコロニーを所有する商業養蜂家がアーモンドやブルーベリー、キュウリ、リンゴといった作物の受粉ができるよう、ミツバチを各地で飛ばすことを可能にすると考えている。

「アメリカふそ病が発生した場合、胞子には回復力があるため、推奨される対処法はハチをすべて殺し、巣箱もすべて焼却することです。ハチがこの病気に感染すれば大惨事なのです」とアットワン・ベンチャーズの創業者トム・チーは言う。チーはダラン社がアメリカふそ病のワクチンの臨床試験を行っていた2022年夏に、シード資金として同社に360万ドル(約5億6000万円)出資した。

燃やされる巣箱(Beekeepx/Shutterstock)

燃やされる巣箱(Beekeepx / Shutterstock)

ドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学(通称ミュンヘン大学)で神経生理学の博士号を取得したクライザーは、大学が学術的な研究をビジネスに転換することを支援する仕事をしていたときに、ハチ用ワクチンにつながる研究を見つけた。そしてフィンランドのヘルシンキ大学を訪れていたとき、エストニアの生物学者で動物学者のダリアル・フライタークに出会った。

フライタークは、不活性化したバクテリアを女王バチに注入することで、巣全体の病気に対する抵抗力を向上させるという型破りのアイデアを持っていた。昆虫やその他の無脊椎動物には人間やその他の哺乳類のような抗体がないため、従来のワクチン製法では効果がない。「研究の話を聞いたとき、『なぜ誰もこれに取り組まないのか』と思いました」とクライザーは振り返った。
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翻訳=溝口慈子

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