俗に集団ヒステリーと呼ばれる現象は、専門用語では「集団心因性疾患(MPI)」という。明確な原因がなくても、何らかの脅威を認識することで生じた不安感などの心因性症状が集団に連鎖的に伝染する現象だと学術的に定義されている。最も古い報告は14世紀まで遡るとの研究結果もある。
医学博士のゲイリー・スモールは、心理学専門誌Psychology Today(サイコロジートゥデイ)への寄稿で「不確実性に直面すると、私たちの心は説明を強く求める。生じた症状に説明がつかない場合、私たちは冷静さを失い、恐怖感が増大する」と解説している。
ソーシャルメディアのクリック数、シェア数、いいねの数がすべてを左右する現代において、誤報、偽情報、陰謀論はいともたやすく拡散してしまう。筆者は大気科学者として、こうした現象をいつも目の当たりにしている。大型ハリケーンが発生するたびに、道路を泳ぐサメの写真や、無関係な雷雨の写真が取りざたされる。気象観測気球が未確認飛行物体だと通報されることもよくある。そして、そこには政府や専門機関に対する不信感という、不穏で危険な傾向もみられる。
今回のドローン目撃証言のすべてをこれで説明できるなどとは言わないが、少なくとも単独飛行するドローンの目撃談については、金星を誤認した可能性がある。天文情報サイトEarthSky.orgの記事には「2024年12月、地球から見て最も明るい惑星である金星は、日が沈んだ後の薄明の西の空に輝いている。年内いっぱいは夕方の空に見える」とあり、夕暮れ時にはかなり明るく光るとされている。米航空宇宙局(NASA)もまた「日没後の南西の空に『宵の明星』として明るく輝き、毎晩その位置は高くなっていく」と述べている。
See this, #NJ? There ARE drones out there, but this is NOT a drone.
— AMY E JOHNSON (@AEJ58) December 13, 2024
This is Venus. pic.twitter.com/g3eg6VEMtv
宇宙ニュースサイトSpace.comも、今月は金星が非常に明るいことを伝えている。天体観測に詳しいコラムニストで気象学者のジョー・ラオは12月3日付の記事に、「12月は惑星ファンにとって間違いなく素晴らしい1カ月になる。金星は今月いっぱい南西の夕空高く輝き、傑出した宵の明星となる」と書いた。