ニワトリをティラノサウルスと結びつける最も説得力のあるエビデンスの1つは、古生物学者のメアリー・シュバイツァーの発見からもたらされた。同氏が率いるチームは2005年、ティラノサウルスの大腿骨を分析していた際に、軟組織の残存物を発見した。6800万年前から残っていたコラーゲン(タンパク質の一種)だ。
これらのタンパク質の配列を調べたところ、現生のニワトリのタンパク質との共通点が見つかった。2007年4月にScience誌に掲載されたこの研究論文は、「ティラノサウルスとニワトリが親戚関係にある」という、既存の化石がすでに示唆していた説を、分子レベルにおける画期的なエビデンスでさらに裏付けるものだった。
恐竜のうろこが羽毛に進化
恐竜と鳥類の結びつきは、羽毛を見るとさらに明確になる。ティラノサウルスの近い親戚にあたるユウティラヌス(学名:Yutyrannus huali)をはじめとする、獣脚類に属する種の多くには、羽毛が生えていた。その当初の役割は、飛行ではなく、保温やディスプレイ(求愛や威嚇のための示威行動)だったとみられている。時が経つにつれ、これらの羽毛は進化によってそれ以外にもさまざまな役割を果たすようになり、最終的には、獣脚類に属する小型の種では飛行が可能になった──2006年3月に学術誌Integrative Zoologyに掲載された論文はそう論じている。
ティラノサウルス自体は体全体を覆う羽毛を持っていたわけではないが、幼体のころは綿毛のような羽毛が生えていた、との説を掲げる科学者もいる。これは、うろこで覆われた恐竜と、全身に羽毛が生えた鳥類をつなぐ、橋渡し役となっていた可能性がある。
ニワトリの体を覆う羽毛は、軽量の骨格構造やくちばしの形態と同様に、先祖の恐竜に最初に発現した適応形態にさかのぼることができる。母親が産んだ卵の上に乗って温める習慣でさえも、その起源は獣脚類の恐竜にあると考えられており、進化による連続的なつながりにさらなる層を追加している。