サイエンス

2024.11.14 17:00

チェルノブイリの「放射線を食べるカビ」、宇宙開発などに応用の可能性

科学者たちは、こうした立入禁止区域以外の場所でも、応用法を探求している。とりわけ関心を集めているのが、宇宙開発の分野だ。強烈な放射線が飛び交う宇宙空間の過酷な環境は、火星、さらにその先への長期ミッションに立ちはだかる最大の障壁の1つとなっている。

Cladosporium sphaerospermumはすでに、国際宇宙ステーション(ISS)に送り込まれている。放射線への耐性という、類いまれなその特性を、宇宙空間の放射線から宇宙飛行士を守るのに使えるか否かを見極める実験が行われているのだ。

初期の実験結果は有望だ。このカビが、放射線への耐性がある住環境の開発、ひいては、宇宙を旅する飛行士に対し、放射線を遮蔽された食料供給源を提供できる可能性もあると示唆されている。

生物が持つ「適応力」をイノベーションの牽引力に

Cladosporium sphaerospermumは、その特異な食性に加えて、過酷な環境への耐性でもよく知られている。低い温度、さらには塩分濃度や酸性度の非常に高い環境でも耐えることができ、知られている真菌類の中でも最も耐久力の強い種の一つだ。

生物の生存に適さない環境にも適応するこのカビの力は、ストレス耐性メカニズムに対するさらなる研究においてもカギを握る可能性がある、と研究者たちは期待をかけている。今後は、バイオテクノロジーや農業分野での進歩につながる可能性がある。

例を挙げると、今後いつの日か、こうした耐性や耐久力をもたらす遺伝子を、放射線に耐性のある素材の開発に用いる、あるいは、穀物に応用して過酷な環境でも生き抜くことができるようにする、といった応用の方法が考えられる。

Cladosporium sphaerospermumは、環境に関する危急の課題への対応にも道を開くものだ。ひょっとすると、放射性廃棄物の処理にも役立つ可能性もあるかもしれない。

研究が進むなかで、この驚くべきカビから得た知見により、幅広い分野でイノベーションが促進される可能性がある。さらにこのプロセスのなかで、生命の境界線そのものに対する理解が進むことも期待される。

forbes.com 原文

翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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