サイエンス

2024.11.14 17:00

チェルノブイリの「放射線を食べるカビ」、宇宙開発などに応用の可能性

このプロセスは、光合成と同一ではないものの、同じような目的を果たすものだ。つまり、周囲の環境から変換したエネルギーを、持続的な成長につなげている。放射性合成(radiosynthesis)と呼ばれるこの現象は、生化学や放射線の研究において、興味深い道を切り開いている。

多くの生物の体内に存在するメラニンは、紫外線放射に対する自然の盾として機能する。しかし、Cladosporium sphaerospermumの体内では、メラニンは盾以上の役割を果たしている。放射線の一種であるガンマ線を化学的エネルギーに転換して、エネルギーの生成を促進しているのだ。

この一風変わったエネルギー生成メカニズムの存在は、学術誌のPLOS ONEに2007年に掲載された論文によって裏付けられている。それによると、放射線量の高い環境で生育するCladosporium sphaerospermumのようなカビは、放射線がない状況で育つものと比べて、成長が速い傾向があることがわかったという。これは、非常に過酷な環境条件に対応可能な極限環境微生物の生存戦略に関する、科学者のこれまでの認識を塗り替える発見だ。

「放射線を食べるカビ」が、放射線との戦いで味方になる可能性も

チェルノブイリの立入禁止区域でCladosporium sphaerospermumが見つかったことで、「放射線を食べるカビ」への関心が高まっている。特にバイオレメディエーション(生物学的環境修復)と呼ばれる、生物を使って環境から汚染物質を除去するプロセスに、こうしたカビを活用する可能性がクローズアップされている。

チェルノブイリのような放射線量が高い場所では、従来からある環境修復の手法を使うのは難しく、危険を伴う。放射線を食べるカビは、こうした場所に対して、より安全で自然を活用した新たな選択肢を提供できる可能性がある。2008年4月にFEMS Microbiology Lettersに掲載された論文は、こう述べている。

Cladosporium sphaerospermumは放射線を吸収し、これをエネルギー源として使える性質を持っていることから、科学者たちは、これらのカビを活用して、汚染地域の放射性物質を取り込み、放射線レベルを下げる方法の実現可能性を探っている。
次ページ > 生物が持つ「適応力」をイノベーションの牽引力に

翻訳=長谷 睦/ガリレオ

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事