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AI

2024.11.07 17:45

「日本はAIのネタを獲れ」 孫泰蔵が展望するこれからのスタートアップの勝ち筋

AIの寿司職人たれ

孫は、握り寿司とAIを3つのレイヤーに分けて例える。一番下にあるシャリに相当するのはGTPなどの基盤モデル。シャリの上に乗るネタのレイヤーは、地域や産業ごとに特化したAIであり、ドメイン固有LLMやRAGと呼ばれるソフトウエアシステムだ。

ドメイン固有LLMとは、非常に大規模なデータを用いた深層学習のLLM(大規模言語モデル)の中でも、医療や金融など業界に特化することで予測精度などを高めたもの。またRAG(検索拡張生成)とは、基盤となるLLMに対して、追加で外部データベースと組み合わせることで回答精度などが高めたものだ。

そして、一番上にあるのはネタに添えるワサビや生姜、ネギといったトッピング。この最上位のレイヤーはアプリケーション。つまり、特定の用途や業務(タスク)に使うソフトのことだ。



とりわけ孫は、アプリは最終的に「AIエージェント」と呼ばれるものになっていくと見ている。AIエージェントとは、人間が設定した指示や目標をLLMが解釈して、人を介することなく自律的に処理するソフトウェアプログラムのこと。

これら3つのレイヤーがセットになることで、社会全体が「AI開発の加速的(累乗的)な進化の恩恵を完全に享受できる」(孫)。

まとめると、シャリだけではすし飯に過ぎない。シャリを土台に、ネタとトッピングを組み合わせることで、多種多様な握り寿司になる。AIも同様に、ローカルごとの言語、そして特定の産業や用途ごとのデータベースと組み合わせることが求められる。

また、寿司職人はネタごとに旬の時期などの情報が頭に入れており、旬のネタを提供してくれる漁師との人的ネットワークも持っている。同様に、ネタやトッピングのレイヤーに相当するAI・ソフトにおいては、地域やドメインごとに固有の知識や事情を掌握し、その領域の最前線にいる人とのつながりを持つことが重要となる。

こうした深いネットワークを持つことを含めた寿司職人のAI版こそが、スタートアップの目指す姿の一つとなる。

舞台はローカルへ

孫泰蔵は、「寿司店はどこに集中しているのでしょうか? もちろん東京です」と投げかける。それは、「江戸前寿司」で知られるように、かつての江戸が寿司発祥の地であるという歴史・地理の要因が大いに関係している。

同様に、AIの中心地といえば、シリコンバレーであることに異論をはさむ余地は少ない。孫自身も、この領域で最新の知見を獲得し、良質な人・企業のネットワークを形成するためにも、米国西海岸を頻繁に訪れている。



その一方、「これからは戦いの舞台がドメイン固有のLLMやAIエージェントへと移る」(孫)のであれば、シリコンバレー以外の地域も、それぞれの産業集積の強みが活かせる時が訪れる。

例えば、世界に先駆け高齢化が進んでいる日本において、優れた介護用AIロボットが生まれてくることもあり得る。「優れたAIを作成するには、トレーニングデータを含め、ローカルな知識を集める必要がある」(孫)ことを考えると、日本というローカルにはロボット産業と介護現場の知識が豊富に眠っているというアドバンテージがある。

このように、特定の産業が集積している地域ごとに、ネタやトッピングに相当するAIアプリケーションの「クラスター(集積地)」が散らばっていくのだ。

とはいえ、AIに詳しい人であれば、「何をいまさら」と思うかもしれない。過去10年ほど、同様の意見は常に存在してきたからだ。

孫の構想は、かねてよりアジアに数多く存在するスタートアップのクラスター(集積)のポテンシャルに注目し、各地のクラスター間でネットワークを構築することだ。「優れたアイデアを共有し、地域一帯で素晴らしい AIアプリを構築していきたいのです」(孫)。
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文=平岡乾

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