国際法の限界と希望
2024年1月、南アフリカがイスラエルの攻撃をジェノサイドとして国連の最高司法機関である国際司法裁判所(ICJ)に提訴したことにより、国際社会の注目が集まりました。映画の中でも、アブラエーシュ博士は自身が難民となった経緯を語っており、彼の両親は南パレスチナのフージ村の名門一族の出身で、数日で戻るつもりで村を離れた後、村が破壊されたといいます。インタビューでも、博士はイスラエルによる「誰も触れないがパレスチナ占領と入植が問題の根源」であると強く訴えています。一方、長い歴史の中で何千年にもわたる迫害を受けたユダヤ人の悲願の建国(=イスラエル)という背景もあり、パレスチナ問題の複雑性と深さから、長年、国際機関も積極的に関与しづらい状況が続いてきました。しかし、2024年7月、ICJはイスラエルのパレスチナ占領政策が国際法に違反するとの勧告的意見を表明。ネタニヤフ政権はこれを無視していますが、長年放置されていたパレスチナ問題にICJが踏み込んだことは画期的であり、その政治的意味合いは大きいといえます。
今後、国際社会が注目しているのは、国際刑事裁判所(ICC)の動向。ICCでは、ICJが解決できなかった国家間の問題を個人の責任に落とし込み、コアクライム(戦争犯罪や人道に対する罪)を追及する裁判を行っています。もしネタニヤフ首相に対して正式に逮捕状が発行されれば(2024年秋現在、ネタニヤフ首相やハマスの幹部に逮捕状は請求している段階)、欧米型の民主主義体制のリーダーとして初めてのケースとなり、ICCのネタニヤフ首相への動向は国際社会に大きな影響を与えます。