5000年の歴史と伝統
東ヨーロッパに位置するモルドバはウクライナとルーマニアの間に挟まれ、大きさは九州ほどの小さな国です。しかし、ワイン作りの歴史は5000年に及びます。この地域では紀元前3000年頃からブドウが栽培され、中世では「パハルニック」という現代のソムリエのような職種が設けられ、ブドウ畑の管理、収穫、製造と一連の工程を管理していました。ロシア帝国支配時にはモルドバの土壌の良さに注目した政府が、フランスから技術者を招いた歴史もあり、かつてはソビエト連邦の主要なワイン供給地として、その後も高品質なワイン生産地として地位を確立して行きました。一方、長年ロシアがモルドバワインのほとんどを輸入し、囲い込み状態が続いていました。ピンチをチャンスに、ロシア依存から脱却
モルドバのワインは、かつてロシア市場で最大のシェアを誇っていました。現在ロシアへの輸出は10%程度ですが、20世紀末から2000年代初期にかけて、モルドバワインの輸出の80%以上がロシア向けで、世界の食卓に届くことなくロシアが長年独占していました。モルドバワインの市場転換の大きな契機となったのは、2006年と2013年のロシアによる輸入禁止措置です。ロシア政府はワイン、野菜、フルーツなど、モルドバの主要産業である農産品の輸入を禁止しました。 モルドバのワイン産業は国内GDPの3.2%を占めており、この禁輸措置は大打撃となりました。ロシア側は「有害物質が含まれている」と主張しましたが、実際にはモルドバが西欧諸国に接近したことへの政治的経済的な制裁であると言われています。
ロシアの制裁を逆手に取る形で、モルドバはロシアへの依存を脱し、新たな市場への進出を図りました。セルジュ・ゲルシウ農業省事務局長の「この禁輸以前には『市場の多角』という概念はほとんど存在しなかった。」の言葉の通り、ロシアの禁輸をきっかけに、モルドバはヨーロッパへの輸出を本格的に開始しました。国をあげたワイン輸出の拡大の矢先に待っていた新型コロナのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻に翻弄されながらも、着々と輸出先を増やしています。