モスクワはロシアのIT開発の主要拠点でもあるが、輸出額では過去最高を記録した2021年の約100億ドル(約1兆5000億円)を境に減少に転じている。この金額は、インドのソフトウエア輸出や中国の電子機器輸出と比較すると控えめな数字だ。だが、インドやアフリカ諸国は中国製のソフトウエア製品を警戒する一方で、テラバイト規模のデータを収集し、顔認識と組み合わせることで利用者の国家安全保障を危険にさらす恐れのあるロシアのアプリには寛容な姿勢を見せている。米政府はロシアのIT企業カスペルスキーのウイルス対策ソフトを導入していたが、同社とロシアの情報機関との協力が疑われたことから、最終的に使用を禁止したことは記憶に新しい。
ロシアはまた、人工知能(AI)を活用した都市交通の監視や道路開発用のシステムを、国内向けと輸出向けに開発している。同国のニュースサイト「ペレトーク」によると、西側の制裁で輸出が制限され、天然ガスが国内で有り余っていることから、火力発電所を新設し、電力不足に悩むモスクワ州の新たなデータセンターを支える計画だ。米国では、データセンターの産業規模が2030年までに2000億ドル(約30兆円)程度にまで拡大するとの予測があり、それに比べればはるかに小さいものの、ロシアでも現時点で10億ドル(約1500億円)規模のデータセンター部門が急成長しており、中国や西側諸国と肩を並べようとしている。
モスクワは著名人や投資家をも引き付けようとしている。主に新興5カ国(BRICS)の加盟国で構成される世界開発機構(WDO)は先月、モスクワで競技会を開催し、ソビャニン市長がイノベーション賞を受賞した。モスクワで同月開催されたBRICS都市フォーラム「クラウドシティー」には、米スタンフォード大学のトーマス・スードフ生化学教授や米コロンビア大学のジェフリー・サックス経済学教授の参加を発表した。
だが、ロシアとウクライナの両国で数多くの人々が犠牲になる中、世界は冷戦終結以来最大の地政学的変動を目の当たりにしている。こうした地政学的変動の悲劇的背景を無視することはできない。BRICSと上海協力機構(SCO)を主導するロシアと中国は、ゆっくりとだが着実に西側の北大西洋条約機構(NATO)や経済協力開発機構(OECD)に対抗する勢力を築こうとしている。石油・天然ガス収入に支えられたロシアのIT部門の成長も、こうした分極化を促している。
ロシアの戦争景気は持続可能なのか、そして世界の分断を元に戻すことができるのかどうかを判断するのは時期尚早だ。それでも、戦争と制裁の予期せぬ結果は誰の目にも明らかであり、来月の大統領選挙後に誕生する米国の次期政権が対応を検討することになるだろう。
(forbes.com 原文)