ブンタンのツェリン・プンツォシェフはブータン東部出身。故郷の料理は中国の影響が強く、例えば花椒(四川山椒)や胡麻などを料理に多用するという。一方、ティンプーのシャ・プラダンシェフは南部出身のため、ローストしたかぼちゃの種とマスタードシードなどのスパイスを木製の杵のようなものでついて作るスパイスミックスを使うという。中国とインドという、深い食文化を持つ国に挟まれ、多くの少数民族が住む国だけに、まだ光を浴びていない食が眠っていることは容易に想像できる。


首都ティンプーの街には、タイから輸入したという「ユニクロ」、中国からの輸入だという「アディダス」や「ナイキ」などの店が立ち並ぶほか、伝統の手織り生地を西洋風にダッフルコートに仕立てた服など、伝統文化を現代の若い世代の感覚に合わせたショップなども並んでいた。新たな時代に向けて、伝統を改革し、未来につなごうという想いが感じられた。
また、アマンコラから、食を通した改革の機運も生まれている。アマンコラ全体を統括するグループ・パティシエのルパ・タマンシェフは、両親を失い孤児となったが、アマンコラで1から料理を学んだことで身を立てたセルフメイドな女性のロールモデル。自らのカフェもオープンし、若い女性を雇用することで、女性の自立を促したいと考えている。

マインドフルネスシティが完成すれば、こういった食の改革にもより一層弾みがついていくだろう。「国民総幸福度」の提唱から50年余り、さらなる変革に向けて動き始めたブータン。伝統文化と改革を両輪に進んでゆくモデル国として、ますます目が離せなくなりそうだ。