この「一生着られる」という考えの根底には、私のイタリアでの生活が強く影響していると思います。イタリア人は、美しいもの、本物、そして長く使えるものを尊重する文化を持つ人々です。気に入ったものを丁寧に選び、本物を手に入れ、それを長く愛し続ける情熱。私はその姿勢に深く感銘を受け、ブランド運営の大切な土台となっています。
さらに現在、着物のデザインの主流はインクジェット技術にシフトしており、特に手描き友禅といった伝統的な技法は急速にその存在感を失いつつあります。その状況に危機感を抱き、手仕事の持つ奥深さと職人技の素晴らしさを後世に伝えたいという強い思いが芽生えました。機械では表現できない繊細な表現や、職人一人ひとりの個性が反映される手仕事には、時間や手間をかけて作られたものにしか宿らない特別な価値があります。だからこそ、レナクナッタでは伝統的な手仕事にこだわりぬいた、特別な一着を作り上げようと決意しました。
そのために、丹後ちりめん、引き染め、手描き友禅、金彩といった、日本の伝統工芸を惜しみなく取り入れました。
──「振袖」のデザインのポイントや、色合いなどのこだわりについて教えてください。
「一生着られる振袖」というコンセプトのもと、購入された方が結婚後に振袖の袖を切ることで訪問着として着用できるデザインにすることが課題でした。成人の日にまつわる式典はもちろん、未婚女性の第一礼装にふさわしい配色や柄を意識しつつ、訪問着にした際にも落ち着きと洗練さが感じられるバランスの取れたデザインを実現することは非常に難しい挑戦でした。振袖の袖を切ることで訪問着の形にはなりますが、一般的な振袖の袖を切ってしまうと、古典的な柄や華やかさから「これは元々振袖だった」とすぐに分かってしまうことが多いです。1年ほどデザインを悩んだ末、地紋に大きな雲柄がある丹後ちりめんと、引き染めによる多色のグラデーションを採用することにしました。これにより、訪問着に寄せた控えめな柄でありながら、華やかさを持たせることができ、振袖としての存在感も両立させました。