「テクノロジー・スーパーサイクル」は、産業革命、インターネットを中心としたデジタル革命(米WIRED誌が1993年に命名)に続くであろう人類のターニング・ポイントを示す考えだ。具体的には、以下の3つの領域が融和して織りなす新しいテクノロジー創出の「超」循環だと言う。
1)AI(人工知能)
2)バイオテクノロジー
3)接続されたセンサー
無論、多くの読者は1の重要性に関して異論はないと思う。これに2と3が組み合わさる具体的な事例については、現時点で特にウェブは言及していないが、「AIと他領域が融和する」という視点の重要性は大きくうなずけることだ。
私の見立てでは、これらはほかの要素が取って代わるかもしれないし、さらに増えるかもしれない。個人的には、彼女が挙げたそれら3項に加えて、web3と量子コンピューティングを加えたい。そして、それはすべてが融和するというより、2項ないし、複数の組み合わせになるだろう。
20世紀後半から21世紀前半におけるテクノロジー革新は、インターネットを中心に勃興してきた。その本質は、現実世界をインターネットにコピーしていくミラーリング(鏡写しする現象)である。そのドメインをデジタルに移した瞬間、これまで規定されていた物理的な限界を超え、新たな寡占状況を作り出すことが可能となった。いわば仮想世界による下剋上の時代だ。そこでビジネスの思考はウェブ的な文化を理解しつつ、その特性を十分に活用し、現実世界の速度よりも速く動くことが不文律となった。
そして、これからはAIがすべてを変えていくだろう。これまでのリアル社会のミラーリングによる、「シームレスな情報化空間」の次は、その空間の知能化だ。これまで、その空間にある情報は受動的ではなく能動的にしか取得できなかった。しかし、今はその情報を篩(ふるい)にかける知性が出現する。その知性と情報空間の組合せは、これから個人、組織、あるいは国すら超えた、人間社会のOS(オペレーティング・システム)になりうる。
インターネットは人間社会というOSによって動かされていた。一方で、知能をもつそれは、むしろ自身が現実社会のOSとなって、アプリケーションや接続されたあらゆる機械を通して、人間の行動や規範に影響を与えるに違いない。その過程において、各分野のテクノロジーや出来事の融和が進むだろう。
産業革命では、機械とオートメーションが世界を変えた。デジタル革命では、インターネットに拡張された情報空間(仮想現実)が世界を変えた。そして、AIを発端とする次の革命では、情報空間を制御するオートマティックな知能が世界を変える。一部の領域においては人間ができることを超えるだろう。つまり、この宇宙における人智を超えた万象のリバースエンジニアリングが起きる。
テクノロジー・スーパーサイクルという概念は、そのような世紀に突入するにおいて、とても良い着眼点だと考える。今後はたったひとつのテクノロジーだけではなく、各領域の成果が掛け合わさることで、予想もしていなかった新規サービスやプロダクト、もしくはインフラが社会を底上げすることになるだろうからだ。
じつは私は昨年、ドイツのベルリンで開催されたテック・カンファレンス「Tech Open Air (以下、TOA)」への参加を通じて、ウェブが提唱する「テクノロジー・スーパーサイクル」のような潮流の端緒に触れていた。2012年からベルリンで毎年開催されてきた同カンファレンスだが、コロナ禍の休止を経て、昨年度4年ぶりに復活した。そのTOAは、まさにこれからの世紀を予見するような登壇者たちに彩られていた。