英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)によると、承認したのは米バーテックス・ファーマシューティカルズとスイスのクリスパー・セラピューティクスが申請していた「Casgevy(キャスジェビー)」という治療法。鎌状赤血球症とβサラセミアという遺伝性の血液の病気が対象となっている。
どちらも赤血球による酸素の運搬に使われるタンパク質、ヘモグロビンの遺伝子異常によって引き起こされる。MHRAの医療の質・アクセス担当の責任者を務めるジュリアン・ビーチは「痛みを伴い、生涯続き、場合によっては死に至ることもある病気だ」と説明している。
Casgevyの臨床試験では、欠陥のある遺伝子を編集することで健全なヘモグロビンをつくり出せるようになることが示された。ビーチは1回限りの治療で症状の軽減に効果がみられたとし、患者は骨髄移植や定期的な輸血を受ける必要がなくなる可能性があると述べている。さらに、永続的な治療効果がもたらされることにも期待を示している。
MHRAによると、臨床試験では安全性について重大な懸念も認められなかった。承認後も安全性を引き続き注意深く監視していく方針だ。
クリスパー・キャス9は10年ほど前に、細菌の免疫システムを応用して開発された。DNAを正確に切断して操作できることから「遺伝子のはさみ」と呼ばれ、2020年にノーベル化学賞の対象になった。
精密な遺伝子編集技術は、欠陥遺伝子の修正から、DNAの微調整による望ましい形質の強化、農作物の増産、病気に対する防御、絶滅した種の復活まで、生命科学の世界でさまざまな可能性を切り開くと期待されている。半面、とくにヒトの遺伝子編集に関しては、人為的につくり出された病気の脅威や、優生思想への傾斜などの危険性もあると専門家は警鐘を鳴らしている。
バーテックス社のレシュマ・ケワラマニ最高経営責任者(CEO)兼社長は、Casgevyの承認を「科学と医療にとって歴史的な日」とたたえた。クリスパー社のサマース・クルカーニCEO兼会長は「ノーベル賞を受賞したこの技術が、重い病気を抱える患者に恩恵をもたらす数多くの応用の最初の例」になることを望んでいると述べた。
両社はCasgevyについて、欧州連合(EU)や米国の当局からも承認を得られることを期待している。米食品医薬品局(FDA)は12月上旬に判断を示す見通しで、MHRAに続いて承認するとみられる。
(forbes.com 原文)