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2024.08.21 12:30

圧倒的な「低エネルギー」で動く、AIを超える「オルガノイド知能」とは何か

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「オルガノイド」とは、幹細胞から作られ実験室で育てられた臓器のレプリカだ。小さくて完全には機能しないが、これらの生きた3D構造は肝臓、腸そして非常に興味深いことに脳などの臓器の主要な特徴を模倣している。

そんな人間の脳の初期段階に似たニューロンの小さな塊である脳オルガノイドを、AIシステムと統合する手段を模索する研究者たちがいる。

脳オルガノイドに注目が集まる理由

AI製品が膨大なリソースを消費するのは周知の事実だ。たとえば、OpenAIのChatGPTは、1日に受け取る2億件のプロンプトに応答するために、50万キロワットもの電力を必要とする。そしてこれは1つのAI企業の1プロダクトに過ぎない。世界中で同様のプロダクトが急速に増えている。

普及が進むAI競争の中で、このブームを支えるために必要なリソースの規模が、ほとんど私たちの理解を超える段階に達している。しかし、スイスに拠点を置くスタートアップFinalSpark(ファイナルスパーク)が、この問題を解決するかもしれない脳組織を開発した。

彼らは、実験室で神経幹細胞から分離培養された「ミニ脳」を使用して、「生体コンピュータ」を作成した。これは、今日のシリコンチップよりもはるかに少ない電力で動作する。

ファイナルスパークの科学者で戦略アドバイザーのエヴェリーナ・カーティスは、同社のブログ投稿で「生きているニューロンは、現在使用されているデジタルプロセッサーよりも100万分の1以下の少ないエネルギーで動作すると推定されています」と主張している。

カーティスの主張は信じがたいが、これは2023年2月に『Frontiers in Science』に掲載された論文に基づいている。この論文は、「オルガノイド知能(OI、Organoid Intelligence)」の概念を紹介している。OIとは、生物学とテクノロジーが融合して新しい形のコンピューティングを生み出そうとする革新的な分野だ。

効率性に関しては、世界最速のスーパーコンピュータでさえ人間の脳に及ばない

10年ほど前には、世界最高クラスのスーパーコンピュータでさえ、脳活動のわずか1%を1秒間模倣するのに40分間かかった。これは、人間の脳がいかに強力であるかを示している。

そして現在、私たちはこれまでにない最速のスーパーコンピュータであるFrontier(フロンティア)を手に入れた。Frontierは、驚異的な1エクサFLOPSのデータを処理することができる。これは、1秒間に100京回以上の計算に相当する。しかし、その裏には、21メガワットもの電力を消費するという事実が横たわっている。

一方、人間の脳は同様のレベルの計算能力を持ちながら、わずか20ワット、つまり電球と同じくらいの電力しか消費しない。ファイナルスパークのような企業は、この驚異的な自然の効率性を利用し、生物学とAIを融合させて、よりスマートで、はるかに持続可能なテクノロジーを生み出そうとしている。
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翻訳=酒匂寛

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