テクノロジー

2024.11.19 15:15

DeSciによる「科学の民主化」がもたらすもの

Flavio Coelho / Getty Images

私が日本でのエバンジェリストを務める独ベルリンの人気テック・カンファレンス「Tech Open Air(TOA)」は、コロナ禍による休止期間を経て、2023年より復活開催している。同カンファレンスでは、生成AI(人工知能)、量子コンピュータ、合成生物学、気候変動テックなど先端テクノロジーに関するコンテンツが充実しているが、じつはweb3に関しても、それを専門に扱うカンファレンスを上回るほどの内容を誇っている。

私が参加したプログラムの一つに、とても感銘を受けたものがあった。それは、経済学者であり、バイオハッカーを自認するポール・コールハース氏の講演だ。コールハース氏はスイスを拠点に活動を行い、Molecule社の共同創業者兼CEOを務めている。Molecule社は大まかにいえば、web3の中核的技術であるNFT(非代替性トークン)、DAO(分散型自律組織)、スマートコントラクトを用いて、「DeSci」と呼ばれる当該分野を牽引するプラットフォームを運営することで名高い企業だ。

DeSciは「Decentralized Science(分散型科学)」を意味し、web3がもつ分散的かつ自律的に運用可能な技術を用いて、これまで中央集権的だった科学領域における課題を解決しようという潮流を指す。これまでの科学が中央集権的であることの一例として、どこかの大学・企業・政府機関に所属していないと研究資金の調達がままならないことが挙げられる。さらに研究に付随するデータや科学知識についても、それを所有している組織・研究室は限られるし、それら知財についての協力的な運用体制を期待することは厳しい。このような状況を打破すべくDeSciは立ち上がったわけだ。

コールハース氏によれば、多くの科学者はその時間のほとんどを自身の研究に関する助成金の申請に費やすそうだ。おまけに助成金は、有望な若手よりも実績のある科学者に支払われるケースが少なくないという。そのため、Molecule社では主として製薬の開発過程において、以下の取組みを行っている。

・IPの流動化

IP(知的財産)に対して法的ライセンスや特許を付与し、その取引と共有を可能にする「IP-NFT」を用いる。NFTは分散型テクノロジーによる「非代替性トークン」を指し、それは現実・バーチャルを問わず、アイテム、アート、著作物などの存在を証明する。リアルなものならばそのデジタルツインとして、バーチャルであれば無制限にコピー不可能なものとして、真贋や来歴を含めて管理・追跡が可能となる。

・DAOの組成と資金調達の支援

DAOとは分散型テクノロジーを用いて構築された、中央集権的ではない組織構造をもつ分散型の組織のことである。そこでは、参加者同士が平等な権利をもち、ルールや運営についてはあらかじめスマートコントラクトといって、期限やイベントがトリガーとなって自動的に執行されるプログラムに記述されている。

Molecule社が運営するプラットフォーム「molecule」では、それぞれの研究対象にあわせた各種のDAOが紹介されている。いずれも同社によってスクリーニングされたDAOであり、それらに対して初期段階から資金提供を行い、開発までを促す(インキュベーション)。それぞれのDAOは研究段階、開発段階といった各ステージにあわせてプロジェクト化されている。

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文 = 小林弘人

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