もちろん、実在の場所で撮影を敢行したわけではないらしく、アトランタにワシントンの議会議事堂を模した建物と道路を3週間半かけてつくりあげたのだという。実際の場所での市街戦のように思えるその迫力は、とにかくリアルにこだわったガーランド監督の強い意図が込められたものだ。
戦闘シーンではことさら派手な演出をすることもなく、とにかく監督はナチュラルなアプローチにこだわったという。それが逆にリアルな臨場感を作品に生み出しているようにも思える。監督も次のように語る。
「人々がニュースで見たことがあるような映像の手法を通して、アクションを見せようと思いました。そういった手法は多くの場合、映画的というよりもドキュメンタリー的で、暴力を残忍に映し出します。暴力や虐殺の現場に魅力的なことや、ロマンチックさはかけらもありません」
アレックス・ガーランド監督は、1970年、イギリスのロンドンの生まれ。アメリカ人ではないことが、「シビル・ウォー アメリカ最後の日」をことさらリアルで冷静な演出で徹底したこととも関係しているかもしれない。
ガーランド監督は、まず小説家としてキャリアをスタートさせ、ダニー・ボイル監督、レオナルド・ディカプリオ主演で製作された映画「ザ・ビーチ」(2000年)の原作小説などを発表している。
2015年、女性型AIに惹かれていくプログラマーを主人公にした「エクス・マキナ」で映画監督としてデビュー、作品も高い評価を受ける。その後、「アナイアレーション–全滅領域–」(2018年)や「MEN 同じ顔の男たち」(2022年)を監督した。
「シビル・ウォー アメリカ最後の日」は、日本ではアメリカ大統領選のタイミングに合わせたのか、本国より半年遅れの公開となったが、アレックス・ガーランド監督が作品に込めた「内戦」と「分断」についてのメッセージは、日本人にとっても深く胸に突き刺さるものがある。
連載 : シネマ未来鏡
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