映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」アメリカの分断を近未来の内戦で描く

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』より(c)2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

その後、民間人の遺体を大量に処理する不審な人間たちによって命を脅かされる危機に陥るが、サミーの機転によって脱出。しかしサミーは銃弾を受け、瀕死の状態に陥ってしまう。

一行はようやく西部勢力が集結するシャーロッツビルに到着したが、すでに最後の進軍が始まっていた。リーたちも西部勢力ともに大統領の立て籠もる首都ワシントンへと向かうのだが……。
リーたちは道中、得体の知れない凶悪な男(ジェシー・プレモンス)から「おまえたちはどんな種類のアメリカ人か?」と銃を突きつけられる(c)2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved. 

作品の中盤までは、このように戦闘そのものよりも、ニューヨークからワシントンへ向かう道すがらリーたちが目撃する異様な出来事の描写に力点が置かれている。それらは内戦がもたらす分断という現実であり、一種のロードムービーの体裁をとりながら、リーたちの視点からこのシリアスな状況が描かれていく。

意味深いのは、道中で次々と出会う武器を手にした人間たちが、どちらの陣営に属するのかがはっきりとは描かれていない点だ。

そこには、内戦による敵味方の「戦闘」よりも、さらに複雑に絡み合った人々の「分断」を提示したいという製作者側の意図が如実に感じられる。監督のアレックス・ガーランドはそのことについては次のように語る。

「現代の内戦とは、すべてが崩壊して粉々に分裂することです。南と北で争うような昔の南北戦争の繰り返しではありません。アメリカや世界の国々が、かつての南北戦争のように明確な境界線で分裂する危機にあるとは思いません。世界が直面している危機はそれではなく、われわれは崩壊し、粉々になる危機に直面しているのです」

リーの後ろ姿を見ながら、ジェシーは少しずつ戦場カメラマンとしてのスキルを高めていく(c)2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

リーの後ろ姿を見ながら、ジェシーは少しずつ戦場カメラマンとしてのスキルを高めていく(c)2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

首都ワシントンでの市街戦シーン

実は、作品のなかでは内戦がなぜ起きたのか、そして今後どうなっていくのかについて、ほとんど言及されてはいない。現在のリアルな政治状況ではカリフォルニア州とテキサス州が同盟を組むというのは非現実的な設定だが、それについても明確な理由は語られていない。

それよりも、監督のアレックス・ガーランドは、内戦による「分断」が生み出す、人々の非日常的な行動や心理状態を表現することに重きを置いているように思える。そして、それがひいては国家の崩壊にも繋がると警鐘を鳴らしているようにも。
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文=稲垣伸寿

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