経済・社会

2024.10.02 08:15

アウシュビッツ式典に招待されないロシア 揺れ動く欧州の歴史認識

アウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所(Luka Dakskobler / Shutterstock.com)

プーチン氏は欧州諸国による歴史認識の見直しに反発してきた。19年の欧州議会決議は、チェコスロバキアのズデーテン地方併合を巡り、英仏がドイツに譲歩したミュンヘン会談には触れていない。また、第2次大戦前、英仏両国はポーランドと相互援助条約を結んでいた。庄司氏によれば、英仏両国はポーランド侵攻を受けて、ドイツに宣戦布告はしたが、ポーランドの再三の軍事力行使の要請に対して経済制裁とヒトラーを批判したビラをまくだけに終わった。庄司氏は「英仏が軍を投入すれば、独軍は厳しい状況に追い込まれたという評価もあります」と話す。
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もちろん、こうした歴史にかんがみても、プーチン氏とロシアの責任が軽くなるものではない。庄司氏は「プーチン氏も首相時代の09年、独ソ不可侵条約について大戦の原因になったとの指摘は否定しつつ、道徳的ではなかったと述べたことがあります。多くのポーランド軍将校がソ連内務人民委員部により虐殺されたカチンの森事件の認否もそうですが、ロシアは置かれた政治状況によって歴史認識を変えているのではないでしょうか」と話す。

一方、ポーランドと英仏両国との相互支援条約を巡る史実をみても、いくら歴史認識や価値観が同じであっても、同盟条約がそのまま履行されるとは限らないこともわかる。庄司氏によれば、相手国が攻撃を受けたとき、同盟国が条項に従って、直ちに軍事力を行使して介入した事例は多くないという。庄司氏は「どの国も国益を考えながら行動します。国益が十分ないところで、自国の若い人の血を流すことはできないからです」と指摘する。ウクライナを巡る欧州の安全保障情勢、台湾や朝鮮半島を巡る東アジアの安全保障情勢は、それぞれ今後どのような展開をみせるのか見通せない。日米安保条約も「相互が直ちに軍事力を行使する」といった内容にはなっていない。外務省関係者は「だからこそ、日米同盟を強化するための不断の努力が求められる」と語る。

1日、首相に就任した石破茂自民党総裁は、日米安保条約の改定や日米の核の共有などを検討すべきだとの立場を明らかにしている。現時点では、米国の専門家からは「現実性がない」というそっけない反応が出ている。米国も、自国の利益にならないと判断すれば、動かない。専守防衛の立場を捨てていない自衛隊を米領土に駐屯させて、果たして米国の軍事力強化につながるのか。あるいは、日本と核を共有することが、核保有国としての優位性を手放したくない米国の思惑と一致するのか。今後、「安保専門家」と評されてきた石破首相の手腕が問われることになる。
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