自衛隊幹部の一人は中国側の思惑について「トカラ海峡で潜水艦の潜没航行を可能にしたいのだろう」と話す。国連海洋法条約によれば、国際海峡として認められない場合、潜水艦は日本領海で無害通航権を主張するため、浮上して国旗(軍艦旗)を掲げなければならなくなる。中国軍がトカラ海峡での航行を急増させているのは、国際海峡として認定されるための「実績づくり」と言えるだろう。
中国軍による一連の行動は、中国軍の能力が拡大したことで、「より詳しい情報」「より広範囲かつ柔軟な活動」を求めた結果だろう。特に、台湾を巡って、日米豪などと中国との間では今、激しいつばぜり合いが繰り広げられている。その焦点の一つが、中国海軍の台湾東岸への接近を巡る競争だ。
日本は7月、フィリピンとの間で自衛隊とフィリピン軍の自由往来を円滑化する協定(RAA)に署名した。フィリピンは第2次世界大戦で国土が戦場になった経験もあり、他国軍のうち、RAAがある米豪両軍以外は、フィリピンの領土・領空・領海内での活動はHA/DR(人道支援・災害救援)に限ってきた。今後、日本とフィリピンの防衛協力は様々な分野に広がるだろう。米国も昨年4月、フィリピン内で使用できる軍事拠点を従来の5カ所から9カ所に増やした。日本とオーストラリアは9月5日、豪メルボルンで外務・防衛閣僚会議(2プラス2)を開き、防衛協力の強化などで一致した。自衛隊幹部の一人は「(台湾海峡とフィリピンの間にある)バシー海峡が大きな穴だった。そこから中国軍が自由に太平洋側に出てこられると、台湾東岸に対する脅威が高まる」と語る。
中国軍もこうした状況を座視するわけにはいかず、様々な対抗手段に訴えているとみるべきだろう。「たかが2分の領空侵犯」「たかが測量艦の通航」と高をくくっているわけにもいかないようだ。
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