サイエンス

2024.09.10 12:30

パリ五輪「3試合すべて0点」で酷評の豪ブレイキン選手に学ぶ「自信過剰の罠」

Getty Images

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2024年パリ五輪のブレイキン女子で、オーストラリア代表選手として出場した「レイガン」ことレイチェル・ガンは、あることを証明した(彼女のパフォーマンスを見ていない人でも、彼女に痛烈な反発が起きたことは聞いているかもしれない)。つまり、国際大会の舞台において、見ている方が恥ずかしくなる未熟なダンスルーティン(ダンスの振り付け)を披露すると、無名だった人間もわずか数時間で、世界中から不名誉なレッテルを貼られるようになる、ということだ。

レイガンをネタにしたミームは残酷なものだった、としか言いようがない。彼女のパフォーマンスは、TikTokから、米深夜番組『サタデー・ナイト・ライブ』にいたるあらゆるプラットフォームでパロディー化された。

ブレイキンは今回、本格的なスポーツとして初めて五輪種目に選ばれたのだが、レイガンの「ムーブ」は間違いなく、この歴史的な節目に影を落とした。とはいえ、人々がレイガンを嘲笑する一方で、ある疑問に対する答えを出せる人は誰もいないようだ。つまり、レイガンはどうやって五輪出場権を獲得したのだろうか。

レイガンのパフォーマンスについては、いろいろなことを言えるだろう。しかしレイガンは、ほとんどの人が「自分もそうあれたら」と切に望むような自信を見せていた。唯一の問題は、その高い自己肯定感が見当違いだったことだ。地元のブレイキン界では無敵だと称賛されていたレイガンだったが、世界の超一流選手と競い合えるほどの実力はなかった。レイガンは自信があったが、その分野では才能が欠けていたようだ。

レイガンを非難しているわけではない。パリ五輪でのパフォーマンスが精彩を欠いた背景には、競技規則が複雑だったり、オーストラリアの女性ブレイキン競技人口が小さかったりなど、さまざまな理由があったのかもしれない。あるいは単に、その日は調子が悪かっただけということもあり得る。

とはいえ、実力が伴わないにもかかわらず自信を抱き、それが本人にとってマイナスになっているケースが多いという事実に変わりはない。そこで、同じような自信過剰の罠に陥ってしまう2つの状況を説明しよう。

1. エコーチェンバーの中にいる

エコーチェンバーは、物理的空間またはオンラインに存在する心理的な環境で、的確か不的確かを問わず、個人が固く信じている考えが強化されてしまう場だ。

エコーチェンバーにいる人は得てして、自らの考えや才能を正当化したいがために、外部の意見を否定する。反対意見や批判的な声を遮断すれば、現実を正しく認識できなくなってしまい、ひいては、並外れたスキルを持っていようがいまいが、慢心した信念がいっそう確固たるものになっていく。

2023年に学際的哲学ジャーナルの『Interdisciplinary Journal of Philosophy』で発表された研究では、一例として、「陰謀論を信じる気候変動否定派のエコーチェンバー」が挙げられている。そこでの指摘によれば、気候変動が起きていることを示す証拠が驚くほど多く存在するにもかかわらず、否定派は、「(自分にとって)信頼できる」エコーチェンバーの外側にいる人すべてに不信感を抱き、立証済みの情報をまったく顧みなくなる可能性があるという。これは、その信念が集団の意見にどれだけ深く定着しているかによって変わってくる。

誤解のないように言っておくと、エコーチェンバーがすべて悪いということではない。自分と考えが同じ人に囲まれていると、人生にプラスの影響が得られることもある。例えば、アルコール依存症者の自助グループは、自分と同じようにアルコール依存症から立ち直ろうとしている人たちとともに時間を過ごすことを目的とした集まりだ。このグループに参加すれば、禁酒しやすくなるし、「依存症から解放された生き方」が見えてくる。

ただし、才能や能力を競い合うとなると、話は別だ。実力がないのに、仲間全員から実力があると太鼓判を押されれば、誤った思い込みを抱きかねない。すべてを肯定する人ばかりに囲まれているのは危険だ。より広い集団と比べた上での自分の実力を、正確に判断できなくなるからだ。その挙句、自分よりも優れた実力を持つ人に出会って、失望することになるかもしれない。
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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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