食&酒

2024.08.21 14:15

全力120%の積み重ね。三つ星「レフェルヴェソンス」生江史伸の20代

レストラン、レフェルヴェソンスのシェフ 生江史伸

洗練されているのに、食材がなんだかがはっきりわかる。それまでフランス料理に抱いていた「綺麗だけれど、何を食べているかわからない料理」という先入観が覆された瞬間だった。「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」の開業のニュースを知り、知人の伝手をたどって、何度も断られたが、ついに面接にこぎつけた。
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2003年、30歳で北海道・洞爺湖の「シェル・ブラス トーヤ ジャポン」に入ってからの活躍は、誰もが知るところだろう。フランス料理経験ゼロというスタートの本人に対して「厨房の半分はフランス帰りのエリート、残りの半分は料理学校の首席揃い」という環境で、スーシェフとして活躍する。独学のシェフ、ブラスは、他とは違う手法で料理をつくることも多い。既成概念なしに「まっさらな気持ちで、120%を出し切る」姿が、信頼につながった。

個の魅力を引き出し合える組織へ

その背景には「少ない睡眠時間で頑張ってきた20代のおかげもある」と言いつつも、今の時代、それを美化してはいけないこともわかっている。ワークライフバランスが叫ばれるなか、「レフェルヴェソンス」自体も、労働時間の短縮を目指して、現在週休2.5日を実現している。目指すのは、お互いがお互いの良さを認め合う組織づくりだ。

料理も組織も、どこか俯瞰して物事をみる背景には、小学1年生から高校卒業まで、通算10年間続けたというサッカーの経験があるようだ。「ずっとゴールキーパーだったんです。自分がフィールドを走るのではなく、後ろから見て、周りを動かす役目」。とはいえ、最後の最後は自分がボールを止めなければならない。数人でまとまって突進してくる相手と激突してしまい、失神したことも数知れない。

そうして培われた覚悟は、今のリーダーシップの形ともつながるという。チームが活躍してくれることが一番嬉しい。「もっと働かせてください」という積極的なメンバーも、ワークライフバランスのある生活スタイルを好むメンバーも互いに認め合い、良さを引き出しあう組織づくり。それを、一番後ろから見ていたい。

インタビューの冒頭で「夢って、特にないんです」と言っていた生江は、インタビューの最後に「あえていうなら、みんながお互いの持ち味を引き出せるチームを作ること、ですかね」と締め括った。
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環境や食の未来についての研究も進めるため、さまざまな学会に出席するなど、店を空ける時もある。ただ、最後の砦として、体を張ってチームを守る覚悟は、いつだってできている。


生江史伸◎1973年生まれ。東京大学大学院 農学生命科学研究科修了(農学修士)。東京西麻布のレストラン、レフェルヴェソンスのシェフ。ミシュランガイド東京三つ星およびグリーンスター。令和5年度文化庁長官表彰。

文=仲山今日子 写真=小田駿一 編集=鈴木奈央

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