2019年に「アジアのベストレストラン50」でサステナブルレストラン賞を受賞。2020年には「ミシュランガイド東京2021」でグリーンスターの評価を受けるなど、これからのレストランがどのように環境や社会にアプローチしてゆくのかについての先進事例と言えるだろう。
しかし、シェフ本人に尋ねると「いつの間にか“サステナブルな活動をしているシェフ”という印象を持たれているようですが、自分としては、大切だと思うことをやってきただけなんです」と、あくまでも自然体だ。
「横浜の典型的なサラリーマン家庭で育ちました。漁業や農業、自然と触れ合いながら暮らしたわけでも、料理人の家系でもない。そもそも、子供の頃は料理人になりたいと思っていなくて。食やサステナブルについて今のように活動するなんて、昔は考えてもいませんでした」
選ばれた立場を全うする
その彼が、いかにして「環境や社会活動をリードするシェフ」となっていったのか。一つの鍵は、シェフの生来の「視点」にある。生江は慶應義塾大学の中でも難関の法学部・政治学科を卒業している。当時、この学部へ入る競争率は28倍。受験生だった彼は、30人ほどの教室のなかで鉛筆を動かしながら、「この部屋のうち1人だけ合格して、他は皆、悲しい思いをするのか」と考えたという。決して自信があったわけでもなく、自分が悲しむ側に回る可能性も含めて。
合格したときに心に浮かんだのは「自分の合格の裏にいる、27人の悲しみ」だった。「その人たちの分も頑張らなければ、バチが当たる」という、責任感にも近い思いが湧いてきたという。
「選ばれた立場を十分に全うしなければ」。その思いはのちに、数多くの場で「選ばれて」きた生江の行動指針にもなった。サステナブルな店として「選ばれた」からこそ「きちんと学び、正しく発信しなくては」それが、今の活動につながっていったと言えるだろう。
大学で勉強に打ち込む傍ら、自立のためにイタリアンレストランの厨房でアルバイトを始めたことが、料理との出会いだ。自然を思う心は、大学を卒業後に飛び込んだ「アクアパッツァ」の系列店で育まれた。調理師専門学校出身ではないことから、サービスに配属されたが、日高良実シェフの料理哲学に大きな影響を受けた。