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2024.08.16 17:30

なぜ日本人は25年間渇望してきた「インフレを嫌う」のか

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非常に難しいことをやってのけたが、これからどうすればいいのかわからないという経済的な例があるとすれば、それは2024年の日本である。

この25年間、歴代の指導者たちはデフレを打破し、持続的なインフレを生み出そうとしたが、その試みはほとんど失敗した。これは岸田文雄首相も同様である。岸田首相は8月14日、自民党の総裁選に立候補しないことを発表した。

確かに、インフレは2021年10月に就任した岸田首相の任期中に起こった。しかし、日本の目標インフレ率である2%を超える物価上昇を引き起こしたのは、岸田首相ではなく、プーチン大統領だった。

ロシアによるウクライナ侵攻はエネルギーと食料品の価格を押し上げ、さらにコロナ禍におけるサプライチェーンの混乱がコストを押し上げた。そのため日本は、過去10年間で価値の3分の1を失った通貨を使い、高騰した価格で商品を輸入していたことになる。

これは経済学者が「悪いインフレ」と呼ぶものだ。1990年代後半から日本は、賃金上昇を伴った需要増加によるデマンドプル型のインフレを起こそうとしてきた。だが実際に起こったのは、家計の購買力を削ぎ、景況感を損なうコストプッシュ型のインフレだった。

このことが、政府の指導者たちが待ち望んだインフレを1億2500万人の日本国民の大部分が嫌っている理由を説明している。

総裁選への不出馬という岸田首相の決断は、インフレが裏目に出た最も大きな例の1つだろう。日本の情勢に詳しい専門家たちは、岸田首相は資金絡みの政治スキャンダルで国民の怒りを買ったと主張している。しかし実際は、長引く景気の低迷が原因だったのではないだろうか。

世界最大の経済大国であるにも関わらず好景気を実感していないという多くの米国人が言うように、インフレはあらゆるものを曇らせてしまう。それだけでなく、日本ではインフレは賃金上昇を上回るスピードで進行しているのだ。

岸田首相は、大胆な改革を公約に掲げながら過去12年間を浪費したツケを払うことになった。悲しいことに、労働市場の近代化、官僚主義的な体制からの脱却、技術革新の促進、女性の地位向上といった公約は、積極的な金融緩和の後塵を拝した。
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翻訳=江津拓哉

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