ゲストの半数以上を外国人が占める東京のファインダイニング「NARISAWA」。名実ともに日本を代表するシェフ成澤由浩を父にもつ成澤レオは、幼い頃から世界の名店を訪れては、トップシェフが子ども用に特別につくる「トマトパスタ」を食べてきたという。
スシやテンプラのみならず「イザカヤ」スタイルも各地に広がり、「ウマミ」はもはや世界共通語。しかし、その人気と比べると、日本の食の魅力を、自分の言葉で海外に発信できる人の数はさほど多くはない。そんな中「世界のステージで、彼の若さとプレゼンテーション力は際立っていた」と、スペインのミシュラン2つ星「ムガリッツ」のアンドニ・ルイス・アドゥリスシェフは振り返る。
「幼い頃から、海外の人と交流するのが好きだった」という成澤は中学卒業後にアメリカ・マサチューセッツ州のボーディングスクールへ。そこでの授業は、暗記ではなく、テーマに沿ってリサーチし、いかに伝えるかが勝負。「表現しなければ評価はゼロ」の世界で、思考の深め方や英語でのプレゼンテーションに磨きをかけた。
そのまま現地の大学に進学するも、コロナ禍で帰国。時短営業になったNARISAWAのサービスを手伝いながら、父と共に、各地の医療従事者へおにぎりを届ける「ONIGIRI for Love」の活動に参加する。2022年にはウクライナの難民支援のための募金プロジェクトを、能登半島地震後には700人分の鰻丼の炊き出しを行い、トップシェフは「発信力があるからこそ、社会に貢献するのが当然」という考えが、自然と植え付けられた。
「イノベーティブ里山キュイジーヌ」を提唱するNARISAWAが、国際会議で伝えるのは、自然と共生する里山の知恵。例えば、店では、世界遺産の白神山地で採取された天然酵母を使った「森のパン」を、高温に熱した石釜を使いゲストの目の前で焼き上げる。「椿と麹」というデザートを提供する際には、麹菌を保存し、増殖させるために椿の灰が使われてきた背景を説明する。これまで表舞台に出ることのなかった里山の文化を丁寧に表現している。