形状と機能を超えて。半世紀を経て注目されるデザインの「CMF」とは

コラボレーションで新たな見え方を

素材と表層の表現の組み合わせの妙では、プラスティック家具のカルテルと英国のテキスタイルメーカー、リバティのコラボレーションが目をひいた。
来年150周年を迎えるリバティだが、家具ブランドとの取り組みは多くない。フィリップ・スタルクデザインの椅子は、リバティ柄の布張りに加え、プラスティックに直接プリントしたものも。ミラノ市内にあるカルテルのショールームはリバティ一色になっていた。

来年150周年を迎えるリバティだが、家具ブランドとの取り組みは多くない。(c)Ken Anzai

イタリアの家具業界が伸びたのは、第二次世界大戦後、樹脂などの新しいテクノロジーを積極的に導入したのが大きな要因だった。その樹脂製の家具雑貨で名を馳せ、各国の有名デザイナーの起用で話題を呼んできたのがカルテルだ。

一方リバティは、19世紀後半に東洋からシルク製品の輸入をはじめ、ロンドン市内に百貨店を開店。第二次産業革命により質の劣る製品が出回るなか、クラフトの良さを説いたアーツアンドクラフツ運動の主導者ウイリアム・モリスにテキスタイルデザインを依頼。草木の模様を描いた「リバティ柄」が世界的にヒットした。
フィリップ・スタルクデザインの椅子は、リバティ柄の布張りに加え、プラスティックに直接プリントしたものも。ミラノ市内にあるカルテルのショールームはリバティ一色になっていた。

フィリップ・スタルクデザインの椅子は、リバティ柄の布張りに加え、プラスティックに直接プリントしたものも。(c)Ken Anzai

今回の目玉は、仏デザイナーのフィリップ・スタルクが手がけたプラスティックの椅子に、リバティ柄を施したもの。リバティのマネジングディレクター、アンドレア・ペトッキは「このコラボレーションはカルテルからの提案だった」と明かす。環境配慮からプラスチックが目の敵にされるなか、それを主材料とした高価な家具が将来にわたって順風満帆とは想像しにくい。そこにリバティ柄がはまったと見える。

また、このコラボレーションにはもうひとつ物語がある。20世紀はじめ、リバティ柄はフランスではアールヌーボーとして開花したが、イタリアではリバティ様式という創業者の名を伴って愛された。工芸品から建築に至るまで、今もイタリア各地にその影響は残り、リバティが「自由」以上を意味すると知っている人たちが、このコラボに興奮するのである。
家具の布地からカーテン、タオルまで多彩な生地を扱うC&Cミラノと京都・丹後地域は約1年にわたって可能性を探ってきた。デザインウィークでは「On Waving (機織り中)」というテーマで両者のプロダクトを展示。期間中にはティーセレモニーも行われた。

多様な生地を扱うC&Cミラノと京都・丹後地域は約1年にわたって可能性を探ってきた。デザインウィークでは「On Weaving (機織り中)」というテーマで両者のプロダクトを展示。期間中にはティーセレモニーも行われた。(c)Ken Anzai

インテリアのテキスタイルで定評のあるC&Cミラノは、京都府北部の丹後の生地プロジェクト「NEXTANGO」とコラボレーションし、両者のプロダクトの数々を展示した。

丹後といえば撚った糸で織られた立体的な「ちりめん」で知られるが、和服市場が縮小していくなかで新たな市場の開拓が求められている。その異文化との出逢いから新たな世界を織れないかと探っているのがC&Cミラノだ。ミラノのほかにもロンドン、パリ、ミュンヘン、ニューヨークとショールームがあるため、丹後の企業にとっては北米や欧州への足がかりができる。
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文=安西洋之 写真=安西 健 編集=鈴木奈央

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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