形状と機能を超えて。半世紀を経て注目されるデザインの「CMF」とは

自社出展はなかったが、イタリアのキッチンメーカーLUBEのショールームで同社製のボードを見ることができた。創業地であるエミリア=ロマーニャ州・カオルソを今も拠点としており、地域のスポーツチームを支援するなどコミュニティを大切にしている。

自社出展はなかったが、イタリアのキッチンメーカーLUBEのショールームでSAIB EGGER製のボードを見ることができた。(c)Ken Anzai

ポプラの根や製材所の屑の利活用から始まったSAIBは、木を新たに倒すことなく廃材だけで製品化する。ベルリンの壁が崩壊した1989年、旧東独で多くの建築物が解体され、大量の廃材を処理する際に、同社はさまざまなノウハウを獲得した。木材のみならず、鉄屑、石材加工で出る粉塵も再生利用する。このようなプロセスで生産された製品がキッチンのトップや扉などにも使われ、家具のデザインを下支えしている。

EUで活動する企業には、製品の材料の全履歴をデジタルアーカイブするデジタル・プロダクト・パスポートの導入が義務付けられるが、適応するための実証実験の準備も順調だ。

SAIB創業家の3代目、クララ・コンティCEOは「サステナビリティなど話題にもならなかった60年代初頭、創業者の機転から始まったわが社にとってサステナビリティはDNA」と語る。名門ボッコーニ大学で経営学を学び、戦略コンサルタントを経て家業に入った彼女の突進力に期待がかかる。

言うまでもなく、完成品メーカーも循環経済社会にあう素材にこだわる。木材の履歴をすべて把握しているのは一貫生産の方針をとる日本のカリモクだ。

同社は18年から、単品販売だけでなく住居や商業空間を設計・施工する「カリモクケース」を展開。木製の窓枠までもオーダーメイドで設計している。「自然を感じる心地よい空間とサステナビリティ戦略の両輪の成立を勘案すると、必然的に空間全体を相手にする形態を目指すことになった」と同社の加藤洋副社長。
カリモクケースは、サローネ本会場で3回目となる大型の展示を行った。「自然なコントラスト」をテーマに、ダークトーンを基調としたブースの中で、麻布台ヒルズレジデンスのためにデザインされた新作なども披露。ブランド独自の世界観を表現した。

カリモクケースは、サローネ本会場で「自然なコントラスト」をテーマに展示。ダークトーンを基調としたブースの中で、麻布台ヒルズレジデンスのためにデザインされた新作なども披露した。

こうしたワンストップ商売は、顧客にとっては多くの供給先と取引する煩わしさを省き、設計・施工する側にとっては提案の実現度を上げるメリットがある一方、利益を自在にコントロールしやすいため、第三者からは「儲けのための一方便」としてとらえられがちだ。

しかし、ミラノサローネ主催の昼食会で、隣の席にいたジャーナリストは、「家具付きで家を販売しているカリモクケースに注目している」と言っていた。その理解は正しいとは言い難いが、利益の最大化が前面に出ていないからこそ生まれた良い誤解と言えるだろう。
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文=安西洋之 写真=安西 健 編集=鈴木奈央

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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