SMALL GIANTS

2024.07.22 13:15

「東洋のスイス」の老舗が生んだ新ベンチャー 中堅企業のモデルケースに

ただ、黒田さんは、中小のファミリー企業には大きな利点もあると見ている。

大企業には、信用力や資産もあるが、しがらみも多くスピード感がベンチャーに比べ圧倒的に遅い。既存の体制が、足かせになる面があるという。一方で、ゼロベースからベンチャーを立ち上げる場合は、人材や資金、技術面で圧倒的なハンディがある。

小松精機などのファミリー企業は、これらの「いいとこ取り」をしたハイブリッドのようなスタイルを取ることができる。ヘンリーモニターを創業した際、そのことを強く感じたという。

地方に根を張る企業には必ず強みがある

小松精機は、諏訪では圧倒的な信用力を持つ。公的機関、銀行、地元住民も「おらが街」の企業として応援する雰囲気があり、融資も受けやすい。

また、「他社には負けない技術の開発」は高コストだ。磁界式センサーの開発には、資金も時間も膨大にかかっているが、それを社内で利用する技術として小松精機が担ってきたいる。


こうした親会社のメリットを最大限享受し、機動力を兼ね備えたヘンリーモニターは、「一つの理想型」と黒田さんは語る。そして、「大企業ではなかなか難しいが、日本に数多あるファミリー企業や中堅企業で、同じことができる会社はものすごくあるだろう」と話す。

長年、日本各地に根を張ってきた地方の企業には、必ず強みがある。しかし、それを自覚できていない企業も多い。ファミリー企業の経営陣である小松さんと長年共同研究をしてきた研究者、そして事業コンサルの黒田さんが組んで立ち上げたヘンリーモニターは、2020年代以降のビジネスシーンで、一つの勝ちパターンとなる可能性を強く感じさせる。
 
小松精機工作所 専務取締役 小松 隆史◎1971年生まれ。東京電機大学先端科学技術研究科にて論文博士を2016年に取得。材料から、医療、センシング、農業分野など最先端の事業を展開。2013年から現在までに、医療機器や海外子会社、大学発ベンチャー、次世代モーターに向けたジョイントベンチャーなど、6社および2団体を設立。1999年小松精機工作所入社し、ドイツ大手自動車部品メーカーの生産技術担当をしながら、結晶を微細化したステンレスの量産および医療機器への展開は世界に先駆けて構築してきた。磁界式センサーはこの材料の判別を行うために開発をしてきた。2022年には「医療分野向けの高付加価値を持つ超微細粒ステンレス鋼の開発」にて令和4年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「科学技術賞(技術部門)」を受賞。

フューチャーアクセス 代表取締役 黒田 敦史◎京都大学卒業後、1998年にパナソニックに入社。その後、A.T.カーニー、フロンティア・マネジメントを経て、2013年に独立してフューチャーアクセスを設立。起業後は、大企業の新規事業開発のコンサルティングをしながら、複数のスタートアップへの投資やハンズオンによる事業支援を実施してきた。現在、6社のスタートアップの株主兼役員を兼務。現在は、原発事故の発生地である福島県大熊町に移住し、町内にある大熊インキュベーションセンターのインキュベーションマネージャーに就任。
 

(本記事は、事業承継総合メディア「賢者の選択 サクセッション」の記事前編後編を編集しています。)

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