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2024.07.22 13:15

「東洋のスイス」の老舗が生んだ新ベンチャー 中堅企業のモデルケースに

2020年6月、東京がゴーストタウンのようになっていたコロナ禍の真っ最中、3人は「ヘンリーモニター」を立ち上げた。「今がどん底で、3年も経てば社会は回復する。準備も含めこのタイミングしかなかった」。

コロナ禍中に創業したヘンリーモニターには、2023年11月まで物理的なオフィスがなかった。初期は、ほぼ全部リモートワークで構成し、正社員や契約社員11人で構成する。相手の事情に合わせながら雇用関係を結ぶスタイルをとることにした。現在は、小松精機が新たに建てたK-Labに入り、顧客との実験やセンサーの開発製造を行っている。

事業スピードに大きなメリット



小松さんとタッグを組む、コンサルが本業の黒田さんは、ヘンリーモニター起業の経緯をどう見ているのか。

黒田さんは、ヘンリーモニターのビジネスモデルについて「イチから製品を開発し、ニーズを見極めながら販路を拡大する。いわゆる一般的なスタートアップ。一方で、大きな企業の社内ベンチャーとしての性格もある」とする。そして、こうしたモデルの重要なポイントを3点挙げた。

まずは「事業スピード」だ。先述の通り、大企業の1セクションでは、意思決定等が遅くなりがちだが、子会社化することで迅速な経営が可能だ。ヘンリーモニターは、親会社の小松精機から数千万円の資本金を出してもらっているが、小松精機に議決権はない。

諏訪ブランドの強みも

次に「人材面」。小松精機は、当然自社のカラーに合った人を採用してきた。顧客が理想とする図面を、精微に具現化していく職人のような技術者は、小松精機で力を発揮できる。一方で、新製品の販売も行う会社のカラーには違う人材が必要で、必要な企業文化は小松精機と違う。

実際、ヘンリーモニターに小松精機出身の社員は、小松さん以外にいない。これまでの出会いを生かして、一本釣りした人や、他社からの転職、高校の同級生で構成している。

3つ目はファイナンス面での理由だ。ベンチャービジネスは、資金を外部から集めてこなくてはいけない。出資を募るのは、会社を上場させるなど出資者に利益があるゴールが必要だ。ならば、社内の1部署より、独立した形の将来を描ける新会社の方にメリットがあるという。

へンリーモニター創業から3年、高級トマトも栽培?

創業から3年、磁界式センサーを主軸とするヘンリーモニターは、どのような展開を見せているのか。

磁界式センサーは、金属加工品や土壌の分析に力を発揮する。小松さんは、顧客のニーズが当初想像していたよりも質的に高いレベルにあると感じている。特にワイナリーなどの顧客は「安心・安全」を求めるため、高い精度での土壌検査が求められることが分かったという。

このため、土壌検査をする現場が必要となり、八ケ岳山麓の長野県原村で、トマトのハウス栽培を開始した。実際に「高級トマト」として販売も行い、土壌検査の有効な実証となっている。

また、出資や借り入れによって財政基盤も整い、潜在的な顧客とのつながりもできはじめた。今後は、顧客開拓や磁界式センサーの販売、サービスの提供というフェーズに入る。小松さんは「これからどんどん伸びていくという手応えを感じている」と話す。
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