食&酒

2024.07.19 14:15

「最高総額3.3億」のワインオークション、713万円で落札の1本とは?

「承認欲求を満たす道具」ともなる高額ワイン

これら高額ワインの需要には、どのようなトレンドがあるのだろうか。ワイン業界歴43年のキャリアの中で、日本市場の変遷を見てきた堀氏は、「私が業界に入った1980年代後半はボルドー全盛期でした」と振り返る。高値で取引されていたのは、ボルドーの一級シャトーで、ブルゴーニュの小規模生産者のワインはほとんど出回っていなかった。

 「現在、日本は完全にブルゴーニュとシャンパーニュの時代ですね」。その背景について、ブルゴーニュは畑の格付け等が複雑で生産者の数も多く、「理解しにくい」ことを挙げる。その沼の深さが、知的好奇心旺盛な日本人の国民性に合っているのでは、と推測する。また、シャンパーニュもそうだが、味わいの繊細さが和食のフレーバーにも寄り添いやすいことも大きいのでは、と話す。

さらにもう一点興味深いのが、SNSがもたらした顕示的消費だ。現在、中国でもブルゴーニュ人気が高まっているというが、格差がますます広がるなか、富裕層は高級ワインの消費を見せびらかして「いいね!」を稼ぎ、承認欲求を満たしているという側面もある。生産量が少なければ、それだけ希少性も高まる。ブルゴーニュ以外だと、希少性の高いペトリュスやルパンなどボルドー右岸の小規模生産者は根強い人気を誇るという。

流通量の少ないシャトー・ペトリュスもさまざまなヴィンテージが出品された。

流通量の少ないシャトー・ペトリュスもさまざまなヴィンテージが出品された。

物議を醸した「少女ヌードのラベル」、自主回収のいわくつきも──


「ワインオークションの醍醐味は、なんといっても市場では手に入らないものが、市場価格よりも安く買える可能性があること。実際に現物を確認して買えるのも、大きなメリットですね」と堀氏は強調する。

シャンパーニュだと圧倒的な人気を誇るのがジャック・セロスやアラン・ロベール。特にアラン・ロベールは今や生産されていない(=世の中から消えていく)ワインのため、価格が高騰しているという。

アラン・ロベール ブランドブラン ル・メニル・トラディション・ブリュット1985年(マグナムボトル)は41万4000円で落札。

アラン・ロベール ブランドブラン ル・メニル・トラディション・ブリュット1985年(マグナムボトル)は41万4000円で落札。

マニア垂涎のコレクターズアイテムも出品される。シャトー・ムートンロートシルトといえば、毎年著名な画家がラベルをデザインすることで有名だが、1993年は2種類のラベルがリリースされた伝説的な年だ。大家バルテュスが描いた少女のヌードのラベルがアメリカで物議を醸し、ムートン側は自主回収を決断。アメリカ市場向けに、背景のみのラベルのワインが発売されたのだ。

ムートンの伝説的な1993年の2種類のラベルのセット(落札額:97750円)

ムートンの伝説的な1993年の2種類のラベルのセット(落札額:97750円)

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