宇宙

2024.06.24 12:30

火星のサンプルを「早く・安く」地球へ 民間に課された史上最も複雑な計画

注目されるのは「火星上昇機」(MAV)

火星に向けて航行するスペースX社の超大型宇宙船スターシップのイメージイラストⒸCacti Staccing Crane

火星に向けて航行するスペースX社の超大型宇宙船スターシップのイメージイラストⒸCacti Staccing Crane

NASAが公表したのは選定された企業名と、各社が提出したプラン名だけ。そのため各企業が既存プランのどの部分を、どのように補完しようとしているかはわからない(下記プラン名は要約・短縮したもの)。

●スペースX社
「スターシップによるMSRの実現」
スターシップを利用するプラン。開発中の同機はアルテミスIII計画(2028年予定)の月着陸機にも選定されている。

●ブルーオリジン社
「アルテミスを活用したMSR」
同社が開発中の大型ロケット「ニューグレン」(2024年9月初打上予定)の使用が予想される。また同社の「ブルームーン」はアルテミスV(2030年予定)の有人月着陸機に選定されており、無人月輸送機「ブルーリング」も開発中。これらの技術がどのように活用されるかは不明。NASAが管理するアルテミスの機材の使用も見込まれている。

●ロッキード・マーティン社
「MSRのための高速ミッション設計研究」
そもそも当初のMSR計画では、火星上昇機(MAV)の製造は同社が受注契約していた。その設計変更でコスト削減と時間短縮が可能かは不明。

●ノースロップ・グラマン社
「高速ミッション設計のための高技術成熟度MAV設計」
火星上昇機(MAV)に関するプラン。同社はISS補給機「シグナス」や、同機を打ち上げる「アンタレス」ロケットのほか、燃料が枯渇した人工衛星にドッキングして延命させる宇宙機「MEV」を運用中。どれもMAVに応用できる技術といえる。

●エアロジェット・ロケットダイン社
「価格とスケジュールを改善する高性能液体燃料MAV」
ロケットエンジンの老舗メーカー。火星上昇機(MAV)にマトを絞り、液体燃料ロケットを使用するプラン。

●ウィッティングヒル・エアロスペース社
「MSR 単段火星上昇ビークルの迅速な設計研究」
弾道ロケットを開発製造するベンチャー企業。火星上昇機(MAV)に特化したプラン。

●クオンタム・スペース社
「クオンタム・アンカーレグMSR研究」
国防総省向けの静止軌道をはじめ、キューブサットから大型OTV(軌道間輸送機)までを開発製造。地球帰還オービター(ERO)に関するプランの可能性が高い。提案書のタイトルにある「アンカーレグ」とは、リレー競技の最終走者を意味する。

この応募でNASAは、「既成概念にとらわれないアプローチ」を民間企業に呼びかけ、現行のスケジュールを維持し、年間支出のピークを抑え、総予算を削減する目標を掲げている。同時にNASAからは2つの要件が提示されている。その1つは火星サンプルによる地球の汚染を防ぐため、チューブを殺菌するなどして地球への汚染を防止すること。もう1つは、パーサヴィアランスが採取したチューブのうち、最低10本を地球に届けることだ。

選定された7社にはそれぞれ最大150万ドルの助成金が、固定価格契約にもとづいて交付される。提出されたプランをベースに、各企業とNASAは90日間に渡る協議を重ねる。その最終報告書は10月までに作成される予定だ。

編集=安井克至

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